「先輩の農業貢献に敬意」=山本喜誉司賞=記念史発刊を記念して=鈴木、荒木2氏が講演

ニッケイ新聞 2009年9月1日付け

 【既報関連】八月二十二日午後からリベルダーデの文協ビル貴賓室で行われた『山本喜誉司賞のあゆみ』(藤井剛三編纂委員長、日ポ両国語)発刊式典の中で、ブラジル経済の専門家でブラジル東京銀行元頭取の鈴木孝憲氏、二〇〇〇年度同賞受賞者の荒木克弥氏による記念講演会が行われた。
 鈴木氏は、「世界を救うブラジルのアグロフォレストリー(農林業)」と題し、日系人がブラジル農業に及ぼした多大な貢献や、潜在成長力のあるブラジルアグロフォレストリーの可能性を専門家の視点から説明した。
 冒頭、学生時代に経済調査で初来伯した際に身元引受人を頼んだのが山本喜誉司農学博士だったことに触れ、「『しっかり実態を見て将来役に立てて』と言われ、強烈な印象を受けた」と振り返った。
 「今、食卓に出てくる野菜はほとんど日系人が作ったもの」と日系人の貢献を述べ、食文化を豊かにしたこととセラード開発の貢献をあげた上で、懸念される世界の食料危機について話し始めた。
 「四年前から食糧輸入国に転じている」中国など、アジアの経済成長による生活レベルの向上やエタノール向け穀物の需要増など、さまざまな理由により「将来、世界は食料争奪戦になるだろう」。
 現在、ブラジルの大豆生産は勢いを増し、輸出量は米国をしのぎ世界一位。「近い将来は生産量も米国を超すだろう」と見解を示した上で、さらに農地拡大の余地があり大きな可能性があるとした。
 また、真水がブラジルは他国に比べ豊富で、地球上の約二割が存在するという。真水は農業発展に不可欠であり、この面からも「大きな潜在成長力がある」と言い切る。
 改善すべき点としては、原料があるにも関わらず世界第三位の肥料輸入国という弱点と、牧畜利用度の改善、輸送インフラの補強改善、安定した供給のための為替制度の改善などを挙げた。
 最後に鈴木氏は、「ブラジルの大地には限りない可能性と夢がある。世界の危機を救えるものと確信すると同時に、移民の先輩たちが大きく貢献してきたことに非常に敬意を表する」と語った。
 「私のブラジルにおける農業人生」と題した荒木氏の講演では、記念すべき同史発刊に、「日系農業者の功績が両国語で全て網羅されありがたい」と委員らを労い、「百花繚乱」の山形で産声を上げてから現在までの自身の人生を、時に冗談を織り交ぜながら振り返った。
 東京農業大学在学中に北米カリフォルニア州で大規模農業を目のあたりにし、そこで学んだ「成功は成功のもと」という荒木哲学を披露。渡伯後、ポットマム(鉢に植えた菊)で成功した経緯にも触れた。
 汎ズットラ地方花卉生産者協会で長年会長を務め、現在若手七十人の育成に精を出す荒木氏。「嫌われても(若手に)小言を言いつづけ、経験を残していかなきゃいけない」と締めくくった。