コラム 樹海

ニッケイ新聞 2009年10月8日付け

 寒い日々が続いたせいか、春の訪れが嬉しい。肌だけでなく、舌でも四季を味わうのが日本人の〃お家芸〃。先日、リベルダーデの日本料理店「ごんべ」の店主和田さんが独活(うど)を出してくれた。生のほろ苦いのを酢味噌につけ、早春の味を楽しんだ▼ウコギ科の多年草で原産は日本。土当帰とも書く。東京で栽培の歴史が古く、鳥取の大山うども有名で秋に採れる寒うどもあるとか。酢味噌和えや天ぷらに良く、自らも厨房に立った俳優金子信雄は、食に関する自著で「オツな酒の肴」として皮で作るキンピラを紹介している▼スーペルメルカドでたまたま見つけたという和田さんも「20年ぶり」だとか。「見ても分からない人も多いんじゃないかな。ブラジル生まれの人は食べたこともないだろうしね」。確かに店頭に並んだのを見たことはないが、日本人にとっては春の到来を知らせる懐かしい味だ▼自身のシッチオで農作物の研究・栽培を行っている高桑義政さんが、山うどの種枝を無料で配布するーという記事を本紙(6月20日付け)で掲載したところ、何と50人以上から問合せがあった。「こんなに関心があるのかと驚いた」と高桑さん。栽培状況が整っている27人に分けた。そのうち、すでに13人から発芽の報告があったという▼1年半ほどで収穫できるというから、来年の今頃はうどが食卓に上る家庭もあるのだろう。季語でもあるようなので最後に一句。「温かく なってきたねと つまむ独活」。そんな会話が家庭を一層温かくする。 (剛)