ファヴェーラから初の柔道代表=シルバ姉妹、夢はメダル

ニッケイ新聞 2009年10月27日付け

 南米初となる2016年の夏季五輪開催が決まったブラジル・リオデジャネイロ。治安の悪さへの懸念は根強いが、貧困や暴力の温床とされるリオのスラム街で、柔道を通じ青少年の犯罪防止や有望選手の発掘などを目的とした非政府組織(NGO)の活動が実を結びつつある。
 地元の姉妹が頭角を現し、妹は8月に世界選手権出場。姉妹は12年のロンドン、そしてリオの五輪を目指しけいこに励んでいる。
 NGOは元五輪メダリストが提唱し03年に発足した「レアソン」(ポルトガル語で「反応」の意)。ラケル・シルバさん(20)とラファエラさん(17)姉妹は、貧しい青少年による抗争を実話に基づいて描いた映画「シティ・オブ・ゴッド」の舞台であるリオ西部のスラム街に生まれた。
 父は宅配バイクの運転手で、月収は約470レアル(約2万4700円)。最低賃金水準の暮らしの中、姉妹は近所の子供たちとたこ揚げやサッカーで幼少時を過ごした。
 人生が一転したのはラケルさんが11歳のころ。口コミでレアソンのことを知り、柔道着に袖を通した。数カ月後、ラケルさんの運動能力に着目したコーチに「ブラジル代表になれるかもしれない」と励まされ、連日8時間に及ぶけいこに耐えた。
 14歳で国内のジュニア大会優勝、07年のパンアメリカ競技大会でも金メダル。試合で各地へ遠征する姉にラファエラさんが刺激を受け、2人そろって黒帯に。姉は今、奨学金を受けて私立大体育学部に通う。
 レアソン代表のフラビオ・カント氏(34)は「才能ある者にチャンスを与えたい」と熱意を見せる。同氏はアテネ五輪の銅メダリストで、元代表監督のジェラルド・ベルナルデス氏(67)らも賛同しコーチ役に。
 五輪の10種目で世界トップ級になることを目指す政府も支援、国際大会での上位入賞を条件に選手に毎月1500レアル(約7万8800円)の報奨金も支給、奨学金を提供する大学も増えている。
 「子供たちは道場で、麻薬売買に満ちたスラム以外の世界を知る。自分の力でより良い人生を切り開けるのだと」と話すベルナルデス氏。現在リオで四つの道場が運営され、4~25歳の千人以上が汗を流す。
 今年8月のオランダでの世界選手権女子57キロ級3位決定戦。ラファエラさんはアゼルバイジャンの選手に接戦の末、払い腰で一本負けした。
 「組み急いだのが敗因。世界とはまだ差がある」とブラジル柔道連盟関係者。ラファエラさんは「五輪で国歌演奏を聞きたい」と再挑戦を誓った。(リオデジャネイロ共同=名波正晴)