コラム 樹海

ニッケイ新聞 2009年12月17日付け

 「いやあ、実は知らなかったんですよ」―。木多喜八郎・文協会長のそんな言葉を聞いて、耳を疑った。12日にあった文協評議員会で来年度の予算案に、『美空ひばりフィルムコンサート』開催に30万レアル(約1600万円)もの大金が計上され、強硬に採決された件だ▼木多会長によれば、この金額は理事会を通過しておらず、開会直前に国井ジェルソン会計専任理事から同案を手渡されたのだという。誰がどういう根拠でこの金額をはじき出したか、その明細はもちろんない。このこと自体が異常だが、不可解極まりないのは理事の誰もが、それを指摘しなかったことだ▼もちろん評議員らは疑義を呈する。しかし、預かり知らぬところで作られた予算にも関わらず、ある副理事長は、「時間がないから早く多数決を」と急いた。こうなってくると本当に知らなかったのだろうか―とも思えてくる。木多会長は、つんぼ桟敷の住人を演じているのだろうか▼こうした状況のなか、挙手で反対票を投じたのは、わずか7人。ある評議員はコラム子に「もし無記名投票だったら…」と話したが、せまいコロニアの住人は、他と言を異にすることを嫌う。こうした性格を知ったうえでの多数決であれば、いわゆる「空気の支配」を前提に、何らかのメカニズムが働いているようだ▼文協改革で定数を減らしたのは何の意味があったのか。これでは、評議員会の出席率が今後―今まで同様に―下降しても仕方あるまい。ブラジル式に決定と実行は同義ではないというのならいい。ただ、日本側との交渉だけにコロニアの信用に関わる。責任の所在だけは明確にすべきだ。 (剛)