コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年2月5日付け

 ついに愛知県で大事件が起きた。日本人3人が死亡したブラジル人が関係したひき逃げ事件だ。静岡県では数年前から県西部を中心に、ブラジル人による交通事故や殺人事件後の帰伯逃亡などが起きて国外犯処罰が大問題になっていた。ブラジル人人口が2位である静岡県より、最多である愛知県の方こそ、本来はこの手の事件が頻発してもおかしくないと思っていた▼ただし、やはり違和感を受けるのは報道の仕方だ。「運転のブラジル人を指名手配へ」とかの見出しを見ると、ブラジル人が悪い人なんだという印象を与えそうで怖い。ブラジル人だから問題を起こしたのではなく、事件を起こした個人がたまたまブラジル人だっただけだ。それなら、個人名を中心にした報道の方がいいのではないか。国籍という属性を前面にたてて報道する真意はどこにあるのだろう。個人名を出す事に関して何か規定があるのかもしれないが、少なくとも国籍を前に出すのはいかがなものか▼もちろんブラジル人にも悪人はたくさんいる。そんなことは当地の新聞を読んだら一目瞭然だ。ただ、必要以上に国籍を強調し、ブラジル人全体が悪いかのような印象を与える表現の仕方に疑問をおぼえる▼そのような外国人犯罪報道に影響されて、一般市民は体感治安が悪化していると感じているようだ。だが実際には、統計の専門家からは外国人や少年の犯罪は激増していないとの指摘もある▼日本国民の不況による不満のはけ口を、在住外国人に誘導するような表現になっていないだろうか。在日ブラジル人の大半は善良な労働者であり、日本経済を底辺から支える貢献をしていることを忘れて欲しくない。(深)