二世とニッポン語問題=コロニアの良識にうったえる=アンドウ・ゼンパチ=第16回=コロニアの日語読本編集

ニッケイ新聞 2010年3月10日付け

 現在コロニアで使われている日語教科書は、もとの文部省で作ったいわゆる旧教科書と、戦後新しく出た各種の新教科書であるが、数年前までは旧教科書の方がずうっと多く使われていた。その理由は戦後の民主的に変革されたニッポンに対して、あきたらぬ不満な気もちをもった一世が、自分が過したかつてのよきニッポンへの郷愁と、新かなづかいに対する無理解と、ニッポン語教育によってニッポン精神をつぎこみたいという願望から、文部省の教科書でなくてはならないように思われ、戦争が終わって当分の間は、圧倒的にこれが歓迎されたのである。そのため、旧教科書はサンパウロで、複写印刷されて十数万部というバクダイな部数が売られたし、現に、まだ売り出されている。
 新教科書は、初めのうちは、ごくわずかな学校で使われていたのにすぎなかったが、年をへるにつれて、しだいに、使用者がふえて現在では新しい方の使用が多くなりつつある傾向にある。
 旧教科書が、新しい時代の子どもにとって、ふさわしくないばかりか、二世にとっては無益の苦労を負わされるだけで役にたたないものであるが、それでは、新教科書なら、二世の日語読本として理想的かというと、これでさえも、いろいろの欠点があって、効果があがる日語教授は期待されない。
 そこで、二世用の日語読本はブラジル政府の認可をとるという目的以外に、二世にとって習いやすく、効果のあがる教科書を作るという目的からも、ぜひ、コロニアで作製されることが必要である。
 そこで、その編集方針について、日語教育会議でいろいろ研究したのであるが、まず、現在コロニアの日語学校に通っているものの大部分が、だいたいどの程度まで習っているかを調べた結果、新旧教科書のいずれにしても、第四学年の本までがいちばん多く、それ以上に進むものは、しだいにへっているという実状にかんがみて、また、コロニアのニッポンと異る諸事情から見て、日語の初等教育の程度は、だいたい、ニッポンの四年生終了程度を目標とすべきであろうという意見が当をえているように思う。
 そして、内容は、二世の日常生活に関連のあることを主として、ニッポンの教科書からとったもの、ブラジルの国語読本からホンヤクしたもの、それに、こちらでかいたコロニア的なものなどを適当にまぜたものが理想的だろうと思われる。
 そのために、当然、問題となるのは、漢字をどう制限するかということである。ニッポンの小学校六年間に教えられる漢字は、八百あまりで、教育漢字といわれているものであるが、四年程度までのものに、これをみんな入れることは、教授上から、ひじょうな無理がおきるし、それだけに、決して効果は望めず、ヘタをすると肝心の日本語を教えることにならずに、漢字だけをつめこむようなことになるおそれがある。