コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年3月23日付け

 日本は山の国であり、森林には多くの生き物が暮らしている。常緑樹がいっぱいで果実が実り、鳥や小さな動物も豊かな食べ物に恵まれ、空を飛び山野を駆け巡り、自然の恵みを受けながら「生きる」歓びを味わっている。国土の70%超が山と森なので緑が濃く、江戸の頃には鹿狩りも盛んであったのを思えば、今の山林荒廃は真に痛ましい▼日本列島には、ニホンオオカミもいたし、明治38年(1905年)に奈良県で捕獲された若い狼が最後の一頭で残念ながら既に絶滅している。日本や中露と朝鮮半島など広大な地域に羽を広げたニホントキも、メスの「キン」が2003年に死去し、今や白い羽と頭の赤が冴える標本だけと本当に物寂しい▼先ごろ、佐渡トキ保護センターで放鳥するために訓練中のトキ9羽がテンに襲われ死に到ったが、これも中国から贈られた洋洋と友友から巣立ったものであり、なんとも情けない。センターに張られた網には200箇所超の穴が見つかったし、小沢鋭仁・環境相が視察したけれども、どうも管理の杜撰ばかりが目立つようだ▼このニホントキは、日本やロシア、朝鮮半島でも絶滅した貴重な鳥なのであり、繁殖や野性化の推進には、万全の態勢と準備が欠かせない。動物でも植物や微生物なども品種が絶えてしまっては、もうどうにもならない。あの最後の1羽「キン」が息絶えたときにだけ感傷的になっても、余り意義はあるまい。もっと外敵の侵入防止と監視態勢の強化を急いで欲しい。必要ならば保護センター職員を増やすことや管理の見直しも検討すべきではないのか。(遯)