JICA=日系支援は5年で35%減=芳賀所長「聖支所閉鎖ない」=代わりに増える国際協力=業務内容が質的に変化

ニッケイ新聞 2010年4月9日付け

 日系社会支援の縮小に伴う聖支所の縮小・閉鎖のうわさが数年前から囁かれているJICAだが、6日午後、芳賀克彦ブラジル事務所長、千坂平通JICAサンパウロ支所長、吉田憲ブラジル事務所・聖支所次長が来社した際、芳賀所長は「今の瞬間でそういう話は全くない」と完全に否定し、「円借款業務などが急増しており、聖支所は重要な足腰」と現在の位置付けを説明した。移住者支援から国際協力分野へ、聖支所の業務内容の質の変化が起こっている。

 JICAがサイトで公表している報告によれば、世界全体の日系団体への助成事業や日系社会リーダー育成事業などに当てられる海外移住関係費の今年度(平成22年)予算は3億6700万円。平成18年度の5億200万円と比べても、過去5年間で35%強も減少している。この中の一部がブラジルに割り当てられている。このままいけば、数年のうちに同費予算自体がなくなりかねない勢いだ。
 芳賀所長は、「(同費に割り当てられる)日本語教育と高齢者対策への助成金は、年々減る一方。もともと小さい中で非常に厳しい現状」と苦渋の表情を浮かべる。中でも日本語教育に対しては年約10%減と関係者の中で言われている。
 「平成5年に移住者送出業務を廃止している。いつまで続けるか、という現状」と千坂支所長は説明する。総務省評価委員会による日本語見直し答申の結論提出が平成24年3月に控えており先細りの一途は免れない。
 一方で、日本語教育の現場をみると、非日系人の生徒が全伯的に増えており、太鼓などの日本文化普及活動を通じた情操教育も各地で実を結んでいる。芳賀所長は、「日本語教育の役割が『地域社会貢献』とする内容が大きい」と、変化をしつつある新しい役割を指摘する。
 「支援し支援されるという(JICAと日系社会の)関係は先細りする一方。新しい切り口で、日系社会との連携を通じて日本文化の普及ができるのではないか」との考えを明らかにし、「(日本語教育は)本来はJICAではなく国際交流基金がやる内容、という話が以前からあり、双方の大元である外務省が調整すべき課題」と述べた。
 聖支所の主要業務である青年・シニアボランティア派遣においては、国民参加型事業費から予算が算出されており、逆にブラジルのボランティア数は増加傾向だ。
 今年7月にはボランティアは64人から80人に増加する予定。現職教員特別参加制度の創設、また近年の傾向としてシニアボランティアが増えており、吉田次長は「(日系社会支援の)落ち込み以上に伸ばそうとしている」と力説した。
 ここ1、2年で急激に増えたブラジルへの円借款業務や、日伯モザンビーク三角協力など国際協力分野はサンパウロが中心となっているという点からも、芳賀所長は「聖支所は大事な拠点。この足腰がないと大変」と強調。聖支所の役割の質の変化が進んでいる。
 高齢者対策や日本語教育業務の先細りは免れないにせよ、JICAの予算折衝を取りまとめる外務省こそが、新しい日系社会の重要性を再認識し、関連政策を打ち出して予算を取ることが求められているようだ。