コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年4月10日付け

 リオは三大美港と呼ばれ海が美しい。有名なコパカバーナ海岸は埋め立てられたところだし、あの街は山裾に広がる都であり、その山懐に抱かれるような瀟洒な豪邸が聳える。そこの山並みにはファヴェーラの家々が櫛 比し、今や麻薬の巣窟と化し警察との「戦争」が続く。日々、銃弾が飛び交う紛争地帯になってしまった▼対岸のニテロイも山が多い。ここでも多くの人々が急峻な山や山麓に棲む。こんな山と丘を集中豪雨が襲ったのだからひとたまりもない。樹木や草々の緑濃い襖を抉り取ったような惨烈な泥濘が家という家を押し潰し、黒っぽい土砂の中に包み込む。ニテロイ107人。リオは55人など182名が黄泉に追いやられ、行方不明も200名を超える。こんなに険しい雨の被害は恐らく初めてではないか▼観測史上、降雨量は最高を記録し、今年はブラジルに限らず雨が多い。アメリカの東北部でも物凄い豪雨が降りマスコミを賑わせたし、どうも異常気象の印象が強い。今年の元旦にはイーリャ・グランデも大雨による山崩れが起こり海辺のホテルが土と泥に襲われ崩壊。観光客が犠牲になったし、南大河州やサンパウロ州なども土砂降りに痛め付けられている▼河の氾濫での人間の死は極めて少ない。低地にある家屋はちょっとした洪水でも床下や台所などに浸水し大騒ぎになる。TVやマスコミが報道合戦を繰り広げるし、被害はそれなりに大きい。だが―山崩れは一瞬にして人も家も呑み込む。しかも、何の前触れもなしの惨劇なので避難の余裕もない。リオとニテロイの災害が大きくなったのは、こんな要因もある。(遯)