コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年4月17日付け

 あの暗く陰鬱な事件から70年―。日本ではあまり知られていないようだが、先の大戦でポーランドの軍人など約2万人を殺した「カチンの森」である。旧ソ連のスターリンが命令しポーランド軍の捕虜らを背後から銃撃し殺戮するという非道な犯罪であり、今に語り継がれる。東西を独と露に挟まれバルト海に臨むこの国はマリー・キュリー夫人のような優れた人物が多く文化も高い。しかし、歴史的には辛い歳月を閲している▼ヒトラーの機動部隊によるベステルプラッチ侵攻で第2次大戦が勃発し、旧ソ連からも攻められ国土は分割されるの悲劇も味わっている。世に知られるアウシュビッツ(現地語ではオンフェンチム)では200万人のユダヤ人が虐殺され、戦争の悲惨さを誰よりもよく噛み締めている。さる10日、ロシアで専用機が墜落し死亡したレフ大統領は、この「カチンの森」に眠る人々の70周年慰霊に向かう途中であった▼戦争犯罪史にも載る旧ソ連による虐殺が何故起きたかの原因は今もはっきりしない。スターリン政権は、ニュルンベルグ裁判でドイツの犯罪だと告発したが、英米が支持しなかったためうやむやになっている。この世紀の虐殺を認めたのは1989年のゴルバチョフだし、プーチン首相はポーランド国を訪問し「犯罪だ」と極めつけている▼しかも、首相はポーランドのトゥスク首相と一緒に4421人が眠る「カチンの森」の慰霊碑に跪き敬虔な祈りを捧げている。これもロシア政府としては初めてのことだし、あの96人が犠牲になった墜落事故の背後には、こんな話も秘められている。(遯)