斎藤由香さんらの新著=『うつ時代を生き抜くには』

ニッケイ新聞 2010年5月4日付け

 戦前の日本移民を描いた大河小説『輝ける碧き空の下で』(日本文学大賞受賞)で有名な作家・北杜夫さんの娘で、07年3月に初来伯した斎藤由香さんが、医学博士の小倉千加子さんと共著で、このたび日本で新刊『うつ時代を生き抜くには』(フォー・ユー、2010年3月)を刊行した。
 斎藤由香さんは、祖父も有名歌人の斉藤茂吉というサラブレットだが、躁鬱病の父の後ろ姿をみて育ち「まっとうな人生を送るには会社員」と考えてサントリーに入社した。ところが血筋はあらそえず、現在は〃窓際OL〃としてエッセーを書き、物書きとしての頭角をあらわしている。現在は系列の広告代理店に出向中だという。
 斎藤さんがサントリーに入社した当時、「いい女と酒を飲み、いい女を抱いているか」と言いながら宣伝部を闊歩していたのが作家の開高健。65日間のアマゾン魚釣り体験のルポ『オーパ』の著者としても有名だ。
 彼が編集長となり大人気を博したPR誌『洋酒天国』だが、芥川賞を受賞したため小説執筆が多忙となり、開高健は社長にも人事部にも内緒で「社員募集の告知」を出す。そこで入ってきたのがのちにエッセイストとして有名になる作家の山口瞳だ。このような名物社員が大勢出入りする同社の気風を振り返り、気がついたら米国発の「うつ社会」が到来していた現実を体験から綴る。
 また「ブラジルで働く日本人たちは、いま」では、ニッケイ新聞の記事が引用され、ブラジル人気質との対比もされるなど幅広い視線から、「うつ社会」での処世術、心の持ち方が分かりやすく語られている。斎藤さんは会社員、小倉さんは専門家の立場から、それぞれ違った視線で立体的に説明。気軽に手に取れて、ためになる本に仕上がっている。