百年史=5万レアルが水の泡?=田中規子氏に費用返還要求=「必然性ない」出張も=農業編刊行、またも延期

ニッケイ新聞 2010年5月11日付け

 日本語版日本移民百周年史編集・刊行委員会(森幸一委員長)は10日午前に記者会見を開き、3月初めに農業編の調整役を解任されていた田中規子氏を、4月末を期限とする約束の原稿が提出されなかったことを受け、5月4日付けで執筆者としても解任したと発表した。すでに同氏と執筆担当者に支払われた調査・原稿料5万レアルについて、返還を求めていくことも明らかにした。具体的な金額については、12日の編纂委員会で決定されるが、ほぼ半額を請求するものと見られる。森委員長は、「請求に応じず、原稿も提出しないのであれば、法的処置も考えたい」と、今までと違った厳しい態度で望む考えだ。農業編は2011年に刊行を延期し、『生活と文化史(1)』、『産業編』の年内刊行を目指すとしている。

 同『農業編』は当初、2009年12月刊行を予定していたが、同氏の業務遅延により、今年3月に延期。
 編纂委員会は7月の刊行を目指し、3月10日までに全ての原稿が揃う目処が立たないことが判明した時点で、調整役を解任。執筆に専念するように言い渡し、農業編小委員会も解散した。
 執筆には4月末まで特別に期限を設けていたが、約束の全原稿は提出されず、今回その任も外された。提出されたのは半分以下だという。
 森委員長によれば、田中氏が各担当者らに依頼した原稿は7割しか提出されておらず、「そのまま使えるのは1、2本。これが(調整役が目を通した)最終原稿か、と思えるほどのもの」だという。
 この事態を受け、日本移民の貢献の中でも重要な位置を占める『農業編』の刊行を先延ばしにし、『生活と文化(1)』を前倒しにする方向で調整している。
 国際協力機構(JICA)の緒方貞子理事長宛で昨年12月、「遅延願い」をブラジル日本移民百周年協会の上原幸啓会長名で提出しているが、「またお詫びしなければならない」と松尾治執行委員長は顔をしかめる。
 昨年9月のアマゾン日本人移民80周年出席を兼ねたものと思われる東北伯地方への〃出張費〃もすでに支払われているが、「全く必然性、正当性のない出張であることは確か」(森委員長)。
 12日に編集委員会を開き、提出された原稿の査読後、請求額を決定、田中氏に対し、返還要求を行っていく考えだ。
 森委員長は、「金銭も返還せず、手元にあるはずのデータ原稿も提出しないのであれば、法的処置も考えざるを得ない」と厳しい口調で語る。
 「研究者の原稿料は、製本化され、数カ月後に支払われるのが通常。今回のように事前に調査費を支払うことはない。それを知ったうえで…研究者として、ある程度信じていた私の責任でもある」と苦渋の表情を見せた。
 田中氏は電話やメールの連絡にも応じない状況が続いており、編集・刊行委員会事務局は、「大人、社会人としての常識に全く欠けている」と話している。