コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年5月21日付け

インターネットやTV国際放送などの通信手段の発達によって本国情報に接する頻度が高まり、移民の現地適応が昔より遅くなっているとの説が、一部学者から唱えられている。ブラジルで言えばNHKを見てネットで日本の新聞を読んでいる移民であり、日本で言えばグローボ国際放送を見てポ語新聞を読んでいる在日ブラジル人のようなケースだ▼ところがワシントンポスト紙のドリス・メイシネル氏による米国の移民に関する記事(4日付けエスタード紙)には、それへの興味深い反論があった。いわく「19世紀から20世紀初頭にかけてドイツ人、アイルランド人、イタリア人が米国に大挙移住してきたが、彼らが適応するまでに1~2世代を要した。英語習得と教育こそ、移民子孫の統合と社会上昇の基本要因だった」▼移民の現地適応には二世代かかるというのは、ブラジルでも常識だし、日本移民の経験に照らしてもその通りだろう。つまり80年代からの大量移動に関して、遅速の判 断をするにはまだ早いとの考え方だ▼米国には1千万人の無資格滞在の外国人労働者がおり社会問題となっているが、移民国家だけあって子供に関して「lei Nenhuma Crianca Deixada Para Tras」(誰一人子供を置き去りにしない法)があり、教育機会を与える公 的支援がある▼ところが日本では、日系人のような合法滞在者の子供ですら公立学校でも本格的な受け入れ体制はなく、ブラジル人学校は授業料が高くて行けず、無教育状態になっているケースが相当数あるという。移民の子供に適正な教育機会を与えずに、社会適応が遅れているなどと議論すること自体、どこかおかしいと感じる。(深)