セラードの今を歩く=家の光編集部・佐藤哲也=(終)=大豆、トウモロコシ、棉の輪作で土壌が安定

ニッケイ新聞 2010年6月8日付け

 小山氏の仲間に日系三世の広沢エジソン氏がいる。かつてコチア産業組合で働いていた広沢氏は、小山氏の農場の近くで大豆を2520ヘクタール、トウモロコシを720ヘクタール、棉を1700ヘクタールで作っている。
 年間1作で、大豆、トウモロコシ、棉をローテーションさせる。この地域では、大豆、トウモロコシのローテーションが一般的だが、輪作に棉を加えることで土壌が安定し、収量も上がるのだという。
 「大豆やトウモロコシだけを作ると、土の中に固い層ができやすく、雨がしみ込みづらくなる。棉を作ることで、根が深く張り、雨が下層までしみ込みやすくなるので、ベラニーコがあっても影響を受けにくくなるし、病害虫が少なくなるね」と、広沢氏は棉を作るメリットを強調する。   いまでこそ5千ヘクタール以上もの土地を持つ広沢氏だが、その道のりは険しいものだった。LEMに来たのは、86年。2800ヘクタールの農場を経営する叔父(故人)を手伝うためだった。手伝うといえば聞こえはいいが、当時、叔父は莫大な借金に苦しんでいた。
 「コチア産業組合からだけでも当時、70万ドルの借金があった。そのほかにもパラナ州に23社から借金があった」
 パラナ州の会社への借金は12年で払い終え、コチアへの借金はその後の交渉の結果、16万俵を8年払いで返済するということで決まった。
 借金返済のために高い生産性を実現するために農場に泊り込み、バイクで農場を見回ったりもした。
 カウボーイハットをかぶり、サングラスをかけたその姿は、NHKの番組で、「バイクに乗ったカウボーイ」と紹介されたこともあったよ、と広沢氏は自慢げに話した。 今年、その借金も完済する。広沢氏は自身を、コチア産業組合在職時の経理の経験と交渉力、高い生産性が借金の返済につながったと分析している。
 これから土地を増やしていくかと聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
 「無理して増やすことは考えていない。自己資金を増やして、チャンスがあれば乗りたい。借金では、そうとう苦労したからね。しばらくは経営を安定させたいと思っているよ」
 ある農家は言った。
 「ブラジルで成功するには、無理をしてでも、土地を買うことだ。リスクはあるが、土地を買った先には、夢がある」
 そのブラジリアン・ドリームを見事につかんだ農家もいる一方で、夢破れて土地を手放した農家、借金の返済に追われる現実と夢の狭間に置かれている農家がいる。
 ブラジルのセラードを舞台にした飛躍的な大豆生産の背景には、こうした生産者が追いかける夢で成り立っているのかもしれない。(おわり)

写真=コプロエステ農協が使用する穀物貯蔵設備。コチア産業組合の解散後、使用料を支払って利用している