コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年6月24日付け

 毎月のようにピエダーデ在住の西尾章子さんから手紙を頂く。内容は決まって山本喜誉司賞批判だ。1月8日付け本紙で報じたとおり第38回同賞を受賞した益田照夫さんの功績中、次の3点に異議を挟んでいる▼一つ目は益田さんが「献上柿」と主張していた点。本紙調査の結果、益田さんの柿は宮内庁を通した正式な献上ではなく、しかも西尾さんの柿も別ルートから両陛下のホテルに届けられていた。つまり献上柿は最初から存在しないし、あくまで〃ピエダーデの柿〃として両陛下は食べられている▼次に「『東京御所』の導入とその市場拡大に貢献」の問題だが、西尾さんは「穂木の提供者は元東京都立農事試験場の土方智先生」とし、益田さんではないから値しないと論ずる。益田さんは「〃導入〃は市場に定着させた」という意味だという。この点は言葉の解釈の問題でもある▼最後の「品種改良」に関しては、益田さん本人も「していない」と認めているから明らかな誤認だ。同選考委員会の高橋一水委員長は、「品種改良の部分は削除し、正誤表に載せる。あやまりたい。その他の件は委員諸氏と検討を続けたい」と記事中で答えているが、半年経った今も正誤表や検討結果が公表されたとは聞かない▼『山本喜誉司賞の歩み』(同賞記念誌編纂委員会編)にはこの項目以外に誤訳も多いと聞く。農業史は日本移民と関係が深いだけに、事実誤認や誤訳、批判が多いならば、思い切って修正版を刊行して仕切り直した方がいいだろう。この問題で賞自体の権威が問われるようでは将来に禍根を残す。この際、農業専門家数人に文面の監修を依頼し、ポ語訳文も直したらどうか。(深)