コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年10月6日付け

 道化師チリリッカ候補が連邦下議選で最多となる約135万票を獲 得した現象は、ブラジル民特有の選挙姿勢だと感じる。選挙運動中には仲間の連立与党からも「不真面目」だと攻撃を受けたが、本人は意に介さずに政見放送で「国民はパリャッソ(道化)じゃない、でもボクはそう」などとおふざけを続ける図太さをみせた。ただし、これだけの得票で当選したことで一番驚いたのは本人に違いない。「今回はボクが国民に騙された」と▼これを見ていて前々回02年の連邦下議選のエネアス候補を思い出した。何度も大統領選に出馬し、ベートーベンの第5交響曲の「ジャジャジャジャーン」を背景音にして怒鳴るように「メウ・ノミ・エ・エネアス!」しか言わない奇妙な政見放送で有名だったが、連邦下議選に鞍替えした途端に史上最多の157万票も獲得。得票を党別に割り振って議席配分する関係で、本人はわずか数百票しかなかった同党候補含め5人が当選した▼あの時もエネアス候補が素晴らしいとは誰も思っていなかった。既存候補に飽き飽きし、「誰にも入れたくない」という気分の大衆がフザケ半分の批判票を集中させたといわれる。たしか90年代前半、電子投票になる前はリオ動物園の人気動物の名前が書かれて〃当選〃したことすらあった▼チリリッカ候補は文盲の疑いがもたれ、選挙裁判所が取り調べをする。もし彼の当選が抹消されれば、大量得票で引き上げられた3候補もろとも失格となり、補欠枠上位にいる飯星ワルテル候補の繰上げ当選の可能性が高まる。さすがのチリリッカも今回ばかりは〃冗談でした〃ではすまされない。(深)