「治安改善に全力尽くす」=日系初の女性で最多得票=下議当選の太田慶子さん=防犯はコロニアにも重要

ニッケイ新聞 2010年10月28日付け

 誘拐殺人事件の被害者になった息子ヨシアキ・イヴェスちゃん(当時8歳)の死を無駄にしないために連邦下議に初出馬して、日系候補としては初の女性、なおかつ最多得票の21万5千票で当選した太田ヨランダ慶子さん(54、二世)。夫の太田マサタカさん(54、沖縄県豊見城生まれ)は2歳半で親に連れられて移住した。太田夫妻は97年に愛息を失って以来、治安向上を求めるNGO団体を作り、ブラジル刑法を改正して罪人に厳しくすることで犯罪を減らす運動を進めている。当選を機に日系社会への思いなどを聞いた。

 「現在の刑法では、どんな極悪非道な罪を犯しても十年もしないで刑務所から出てくる。これでは犯罪は減らない。刑法改正が絶対に必要」と慶子さんは訴える。
 現行法では死刑もなければ終身刑もない。たとえ100年以上の禁固判決を受けた囚人でも、実際に刑務所に拘置されるのは最長30年と上限が定められている。
 しかも刑期の5分の2を経た時点で、昼間は外出して仕事をし、夜だけ刑務所に戻ってくるなどの半拘束状態になる。これが模範囚だとさらに完全禁固期間が短縮されるという。
 イヴェスちゃんの誘拐殺害犯の場合、「46年の判決を受けたのに、犯人はたった6年で刑務所から出てきた。これでは暴力犯罪は無くならない」と慶子さんは憤る。
 国民的な宗教論争となることが必至の死刑導入ではなく、太田夫妻は刑法に終身刑を入れる署名活動を行い、実際に300万人ものサインを集めた。それを当局に提出したが何も動かなかったという苦い経験がある。それなら、自ら政治家になって世の中を動かさなくてはと出馬するにいたった。
 慶子さんが来年から連邦下議として働きかけようとしているのは、最長禁固期間を現行の30年から100年に引上げる法案だ。これなら5分の2に短縮されても40年間は刑務所に禁固されることになり、凶悪犯なら人生の大半を拘束されることになる。
 マサタカさんも「拘留期間を延ばすことで犯罪を予防する効果がある。でないと、すぐに刑務所から出てきて再犯につながる。妻と共に今まで以上に運動を盛り上げたい」と強調する。
 慶子さんは「犯罪被害はコロニアの問題でもある。特に狙われやすい高齢者、デカセギ帰りなど治安問題と関係が深い。みんなで力を合わせて社会を住み良くしましょう」と続ける。
 親から「にへーでーびる(ありがとう)」「ちばりよー(がんばれ)」の沖縄精神を教え込まれたという慶子さんは、「イヴェスが亡くなってトートーメ(仏壇)の重要さをより痛感するようになった。先祖に祈り、沖縄文化、日本文化を継承することに誇りを感じている。日系人の倫理観、道徳観を広めることは犯罪抑止に役に立つ」と語った。