コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年10月30日付け

 コチア青年らが海の荒波を乗り切りサントスに着いてから55年。総勢2508名が農地に挑みバタタや花卉、野菜などを栽培し近頃は牧畜に進出する「青年」も増えているし、このブラジルの大地にしっかりと根を下ろし活躍しているのは悦ばしい。槍投げでブラジルの新記録を出した馬場亮次さんや相撲の桑鶴忠志さんらがスポーツ界で活躍しているのも、いかにも南米の大陸らしくて楽しい▼もう40数年も昔になるけれども、邦字紙の駆け出しの頃は、コチアや南伯などの組合を回るのが義務のようなものだった。農協などまったく知らないし、大急ぎで日本から本を数冊取り寄せて俄か勉強し、組合の幹部らと丁々発止と渡り合ったりもしたが、いろいろと教わることが多かった。あの当時のコチアの理事は、戦時中の産業青年運動などで鍛えられていたので若い記者にも懇切丁寧に説明してくれ本当に有難い記憶が今も胸底に生きている▼いろんな苦労もあったが、楽しい話も多い。なかでも花嫁移民の取材は、格別なものであり、慣れない手つきで農作業に取り組む花嫁の姿には感嘆し黙って深く頭を下げるしかなかった。理事の相川政男氏の協力を得てのルポだが、ヴァ・グランデの日比野勝彦さん、アチバイの地坂満夫さんらの奥さんは、花嫁の暮らしぶりをとても朗らかに語ってくれた▼写真で「見合い」して結ばれた花嫁は500人近いそうだし、昨年は第一回から数えて50周年。こういう若い人たちの相談や世話役をも務めたのは古関のりこさんだったが、相川理事や日比野、地坂、桑鶴さんらも―もうこの世にはいない。(遯)