コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年11月5日付け

 またひとり移民の子供が大統領になった。サルコジ仏大統領(親がハンガリー人)、オバマ米大統領(父親がケニア人)など枚挙にいとまがないなか、今度はジウマ・ロウセフ(父親がブルガリア人)がブラジル大統領になった。いわば移民の子で女性という二重の引け目を跳ね返しての勝利だった▼父ペタル・ロウセフは世界恐慌が起きた1929年、恋人のお腹に7カ月の胎児を残してブルガリアから渡伯。名前をポ語風にペドロに変え、ミネイラと再婚し、ジウマが生まれた。ペドロは家族再会を死ぬまで願ったが叶わず73年に死に、ジウマの異母兄ルベンは07年になくなっている▼前回の世界恐慌時に父が渡伯し、今回「百年に一度」と言われた2年前の金融危機の時、娘ジウマは事実上の大統領選候補と呼ばれ、今回当選を決めた。世界恐慌と縁のある家系のようだ▼ジウマは70~73年まで左派活動家として政治社会警察に捕まり、「残酷な拷問をうけた」と08年に上院審議会で証言している。「パウ・デ・アララ(棒にぶら下げる拷問)、電気ショック、死の恐怖と戦いながら、同志や自分の命を守るためにウソをたくさん言った。それを誇りに思っている」▼軍政時代の史料は現在、リオの国家史料館に収蔵されているが、今も軍裁判所が管理し、選挙戦に絡んで多くのジャーナリストが閲覧を申し込んだが断られた。評論家ミリアン・レイトンも「軍政が終わって25年も経つのに、いまだ軍裁判所が管理していること自体おかしい」と憤る発言をした。選挙戦は終わったが、ジルマ氏の本当の戦いはこれから始まる。(深)