コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年12月15日付け

 ブラジルの高速鉄道構想の入札が延期され、迷走状態にある。応札する企業側との折り合いが付かなければ適正な競争は難しい。機が熟していないことを暗示している。サッカーW杯やリオ五輪を機に、一気に大型インフラ整備を進めようという政府の気概は理解できる▼ただしこの地で生活する者の本音として、高速鉄道に200億レアルも投資する前にやってほしいことは幾らでもある。例えばサンパウロ市ですら頻発する停電、不安定なブロードバンドのインターネット環境の整備だ。それに生活インフラの水道水だって時々止まるし、雨が降ればすぐに洪水だ▼〃老後のインフラ〃たる年金制度もまだ不安定だ。過去の政策変更から予想していた受給額がもらえない痛い思いをした国民は多い。そんな経験から、今払っている国民ですらも将来幾ら貰えるという確証がない状態は良くない▼〃知識のインフラ〃である公教育(公立学校)のレベル向上はあらゆるメディアが口をすっぱくして批判しているが、理想的なあり方からは程遠い。それゆえ高速鉄道とか宇宙ロケット、原子力発電などのハイテク構想には「背伸び」した印象を受ける▼もちろん、誰もが最初は疑問におもったエンブラエルの飛行機製造が今では世界から見た当国のイメージを変えていることは間違いない。農業国・資源国から先端技術の国に産業構造改革をしたい政府としては、その象徴が欲しいのは理解できる。理想を高く持つ志は悪くない▼ただし人にも国にも〃身の丈〃があると思う。為政者には、少なくとも生活者を最優先する発想をして欲しい。国民の生活基盤の充実あっての先端技術ではないか。(深)