今の日本に一言=祖国を愛するが=故に激を飛ばす!

ニッケイ新聞 2011年1月1日付け

 家族の絆が弱まり、地域の関係が薄まる社会の地殻変動の中で、移住者が旅立ったころに比べ、今の日本は変質していると感じる。在外邦人は遠くからみているからこそ、日本人の根底を支える大事な何かが変わってきていることに敏感だ。世界が不安定化する今こそ、しっかりしてほしい祖国・日本——。移民は遠く地球の反対側から歯がゆい思いで見ている。新年にあたり、愛するがゆえに叱咤したい心底からの声を訊いてみた。

馬場康二さん(72、福岡)=「犯罪が変った」

 開口一番、「犯罪が変った」と現在の日本についての印象を語る馬場さん。小学6年生の自殺、引きこもりによる妹殺傷事件、親殺し、子殺しなど、例を挙げる事件にきりはない。猟奇犯罪など、まるでブラジルよりも多い感じすらある昨今、治安のいいはずの日本だからこそ、移住者にとって祖国の犯罪の変化は奇異に映るようだ。
 「生活環境の多様化、娯楽の蔓延など、家庭での厳しい教育、環境がなくなった。僕らは食べ物すら苦労した時代に育ち、受験戦争も厳しかった。それにくらべ、今は苦労することが少なくなり、ハングリー精神が乏しいと思う。昔はニートなんて無かった」と日本の若者の現状を憂う。
 「人口減少の問題もある。それら次世代の問題は日本国民皆が自分の問題として考えるべき。政府にまかせきりでは駄目。もっともっと悪くなってしまう」と警鐘を鳴らす。

加藤政義さん(85、山形)=出て来い元気のある政治家

 「元気のある政治家が見たいな・・・」とため息交じりに話す。若手の政治家は次々に現れるが、どこか迫力というか、経験がかもし出すタフさとか、世界に通じる老練さとか、何かが足りない。
 「人がよすぎるのか、菅さんはリーダーシップがなくて、どこか頼りない。北方領土、尖閣諸島の問題なども宙ぶらりんのままだ」と心配する。
 背筋の通った骨太の政治家が現れ、危機に直面した今の日本を切り回して欲しいと思っている。
 「僕の父は明治生まれの頑固者だった。すぐれた発展を遂げたそんな時代の気骨のある政治家にまた現れてほしい」と切実に願っている。
 また、日本で仕事をしていた時のことを振り返り、「若い人で『日本はダメ、アメリカの州のひとつになればいい』なんて言った人がいた。聞いていて非常に不愉快だった。自分で今の日本の状況を何とかしてやろうという覇気がない。もっと自分の国を思って欲しい」と祖国の現状を憂いた。
 自分の生まれた国とはなにか。離れて初めて分かる祖国の有り難味が骨身にしみる移民としては、こんな若者の自暴自棄な言葉は聞き捨てならないものだ。

角谷博(65、愛知県)=「こっちの人の方が日本を心配している」

 「むしろ、こっちの人の方が日本を心配しているよね」と角谷さんはいきなり鋭く切り込む。
 「移住したばかりの時は、日本人ということで馬鹿にされたこともあった。しかし、今では尊敬の対象にすらなっている。でもその一因としては、日本の経済発展が影響している」と分析する。もちろん、移民みんなの努力が認められ、それがブラジル人の持つ好印象に影響を与えている。でも、その背景に、日本の大きな存在があることもまた移住者にとっては痛切に感じるところだ。
 「だから本国がしっかりして立ち直ってくれたら、海外にいる僕らも大きい顔ができる」と笑う。
 ただし現状としては、「外交も経済も他のアジア勢にいいようにやられている」として、「外交に対する明確な指針が必要で、経済では総理を含め外交官らが日本の商品を海外で売り込むぐらいのことをしてほしい。危機感を持って」と呼びかける。
 「やはり外国から日本を見ると違って見える。その分歯がゆく、よくなって欲しい」。その思いは強い。

井上治男さん(82、福岡)=「代わり過ぎ。もっと首相続けて」

 「日本の人は内閣にばかり頼りすぎ」と井上さんは語気を強める。政治とは、自分たちの代表者に任せることだけではなく、国民自身が政治家を通して働きかけていくことでもある。国民の声を代弁するから代議士であり、その政治家がしっかりやっているかどうか監視するのは国民の仕事だ。
 「国民自身にもっと声を上げて欲しい。なんか存在が空気みたい。もっと自分のことだと、当事者意識を持って真剣になってもらわないと、日本はもっともっと悪くなっていく気がする」と嘆く。
 最近の首相の激しい入れ替わりについても、「金ばっかりかかってしょうがない。誰でもいいから続けて欲しい。ブラジルみたいに4年ぐらいはやってほしい」と願う。

福沢哲男さん(69、東京都)=「大きな視点で政治を」

 「法務大臣の辞任問題とか近頃の国会を見ていると、すぐに『辞めろ辞めろ』の嵐になる。でもその追求する理由を聞けば、ブラジルの政治と比べてくだらないものばかり」と感じている。
 それまでは短波ラジオと報字紙の情報だけだったが、この10年でNHKを視聴している人がめっきり増え、日本の政治が手にとるように分かるようになった。その分、感心する番組やニュースも多いが、心配事も増えたようだ。
 「子供みたいに政党同士足を引っ張るのではなく、国民のことを考えた、大きな視点で政治をして欲しい。非常に日本の行く末が心配」と述べた。

本条勝正さん(71、兵庫)=「政治状況情けない」

 「超党派でものを考えて。今何をすべきで、どうして行くのか。ビジョンを明確に示して欲しい—」。
 今の自民党、民主党の争いを「ただの足の引っ張り合い」とため息をつく。
 日本国内のことばかり気にして足を引っ張り合うのではなく、世界に向けての存在感を強めるために大同団結して挙国一致内閣を作るぐらいの危機感がないものかと、残念な感じがする。
 「そんなこと(内輪もめ)をしている場合ではない。情けない」との義憤がもれる。国内の出来事に目をとらわれるのでなく、国民自体が常に世界からの視線を気にして今何を優先すべきかを政治家に気付かせないといけない。
 中国版新幹線「和諧号」が日本を抜き世界最高速を出したことに触れ、「日本のテクノロジーは世界一しかし資源は無い。技術をそう簡単に外国に教えるべきでない。国力の低下を早めてしまう」と話す。「日本を考えて。日本をよくするため今なにをすべきか、皆の頭を持ち寄って考える時」と官民での危機感の共有を求めた。