コロニアの将来のために=シンポ「 年後の日語教育」=みなで支える日語学校=世界に通じる日語教育を


特集 2010年新年号

ニッケイ新聞 2011年1月1日付け

 「日本語学校、文協、センター、大学などみんなが連鎖している。みんなが良くならないと日本語のレベルは上がらない」。ブラジル日本語センター(谷広海理事長)の設立25周年を記念して2010年10月24日に開催されたシンポジウム「10年後の日本語教育を考える」の講評で、USPの松原礼子准教授はそう語り、日本語教育を学校だけにまかせずにコムニダーデ全体で盛り上げていくことで、むしろ将来的な日系社会への見返りこそが大きいことを強調した。二世からは日本語や日本文化がブラジル社会にもたらす好影響を、非日系の教育関係者も日本語教育の大切さを訴え、幅広い視点からのシンポジウムとなった。その要点を紙上で再現してみた。

 「言葉は魂です」。最初に基調講演した大志万学園理事の川村真倫子さん(82、二世)は、教師生活60年の経験から、日本語教育の貴さを力の入った言葉で訴えた。「七度生まれ変わっても、日本語教師になろうと思います」。
 戦争直前に両親の郷里三重県に送られ、師範学校を卒業した。その間、空襲を受け、防空壕に飛び込んで命からがら生きのびた経験から、「子供たちを死なせたくない、平和が欲しい」と切に願うようになったという。
 「日本人の根っこを忘れてはいけない。日本人の誇りをもって生きなさいと父に繰り返し言われた」と思い出し、「日本語は素晴らしい精神性を持っている。それを日本語教師が広く世界に知らせることで、平和な世界建設に役立つことができると確信します」との意義をのべた。
 「私も最初はフンド・ジ・キンタル(裏庭)から始めました。3歳から世界に通じるモッタイナイ精神を教えていくことが大事」と松柏学園(日本語学校)創立の時を説明し、「初めは自分の教育に自信がない部分もあったが、60年の経験から今はその考え方は間違っていなかったと思っている」と確信に満ちた表情をみせた。
 日本語ができる日系社会の後継者を育てるのではなく、ブラジル国や世界で役立てる人材を育てたいとの方針を強く持っている。実際に日本の文化や精神を小さい頃から学んだ日系人が、自分の専門分野でその特質を活かすことでブラジル社会での高い評価につながっている。
 例えば同学園の生徒や卒業生をみれば、飯星ワルテル連邦下議(元伯日議連会長)、ベルリン交響楽団指揮者マサユキ・カルバーリョさん、テレビ番組司会者の山井ケンジさん、レストラン木下の村上強志シェフなど一般社会で活躍する多くの著名人が生まれている。
 さらに公教育の中に日本語を入れていかないと将来的に生き残れないのでは、との考え方に行き着いた。松柏学園版の日伯学園構想だ。
 川村さんはその信念に従い、娘や協力者らと共に大志万学院(川村真由美校長)という小中学校構想をぶち上げ、自前の新校舎を建設した。菩薩雲集を地でいくように、日本から趣旨に賛同して支援する有力者が現れた。
 教育方針が国際的な考え方であることが理解されるに従い、中国系、韓国系をはじめ血筋を超えた多様な生徒が集まりつつある。数年内には高校部まで広げる予定だ。
 「小学校から日本語をいれていかないと、将来的にレベルの高いものにならない。裾野が一番大事、基礎を作る喜びを感じている。そこに大学の高いレベルがのったら、ブラジルの日本語教育は万々歳です」との役割分担を強調する。
 一日本語教師が個人でブラジル学校を創立する前例を作ることで、全伯にも同じような形で日本語教育を残す方向に先鞭がつけられるのではないかと意気込み、歯を食いしばって試行錯誤をしたという。「全伯にできなければなりません」と呼びかける。
 先日、サンダルの「アバイアーナ」を世界的なブランドに育てた平田アンジェラさんを同学院に招いて講演会を行なった。かつて安物の代表格だった同商品が、今はハリウッド女優が履く5万レアルの高級品まであるブランドになった。
 川村さんは「日本語のブランドをどうするか、日本語はブランドになります。国レベルじゃない、世界レベルのブランドです」と日本語教育関係者にエールを送った。