弓場農場=心を結ぶクリスマス公演=50年の節目のバレエ=懸念される人手不足

ニッケイ新聞 2011年1月6日付け

 実りの時を迎えた果実が、照りつける太陽の光を反射する。マンゴー、ゴイアバ、キアボの収穫、出荷が忙しいこの時期、弓場農場(通称=ヤマ、コムニダーデ・ユバ、弓場常雄代表)では12月25日、今年も、年末恒例の「クリスマスの集い」が開催された。「皆様よく御参加頂きました。長いプログラムですが最後までお楽しみください。クリスマスおめでとう」、弓場代表によるあいさつが行なわれ、ピアノ、フルート、トランペットの演奏が始まった。月光照らす農場で、テアトロの照明が一際輝く。朝は農業、夜は芸術、2つの顔を持つヤマの人たちによる舞台公演だ。

 1961年に、ヤマの人たちが建てた劇場は今も健在で、450人ほどの来場者で一杯になった。
 舞台は音楽、バレエ、芝居の3部構成からなり、口火を切ったのがピアノ独奏。その後、管楽器演奏が披露された。
 今回のプログラムには、プロの演奏家も5人ほど参加。彼らは現在、月に一度、ヤマの人に指導を行なっている。
 指導は、昨年2月から始まったもので、政府の文化支援策、「ポント・デ・クルトゥーラ」の助成金でその費用を捻出した。
 同支援策は、ブラジルの既存の地域文化の活性化と、その普及を目指すことが目的とされる。
 講師の授業料の他、10本のヴァイオリン、チェロ1本を購入し、現在週に1回、ミランドポリス市の大人、アリアンサの子どもらを集め、音楽教室を開催している。
 クリスマスの集いは、その生徒らの初の発表の場にもなり、ヴァイオリンを持った子らは、舞台上で緊張の面持ちながら「初めてのクリスマス」「キラキラ星」「ジングルベル」などの曲でその成果を披露した。
 支援の申請作業を行なった小原あやさんは、「支援を受け続けるためには、面倒な手続きも必要だが、弓場以外の人にも文化活動を広め、文化の拠点のような働きができるようになれば」とし、さらに「同じく支援を受ける人たちとの交流を通じ、知らないブラジルの文化を取り入れたい」と期待を込める。あやさんは、弓場バレエ団の指導者小原明子さんの次女にあたる。
 第二部では、今年50年目の節目の年を迎える同バレエ団が登場。「それぞれのアリア」でドレス姿の女性が、しっとりと静寂な踊りを見せたと思えば、第一アリアンサの生徒らが、激しく、元気な「YOSAKOIソーラン」を踊った。
 オペラ調の「ハバネラ」では、弓場勝重さんの熱唱が、観客を魅了した。弓場とアリアンサの子らが競演した「くるみ割り人形」の後、小原明子さんが登壇し拍手喝采を浴びた。
 最後は日本の民話「こぶとりじいさん」をミュージカルにした「どんとはらい」がこの日一番、会場を沸かせた。
 笑いあり、踊りありの舞台で、登場した翁、妖怪の衣装、演出に使われた3メートルほどの大きな扇子も手作りとは思えない本格ぶり。ブラックライトを使い、白骨がダンスする場面など、観客をひきつける要素に、役者らの熱演が加わった。
 「今年の作品は自信なかった」と謙遜するのは、作・演出を務めた熊本由美子さん。
 無事に舞台が終わったことを喜ぶが、「若者がもっといれば活発な舞台になった」と少し残念そうな表情を浮かべる。
 「今年は最高に人手不足だった」と生活を支える農業の、厳しい状況も語る。その原因は、都市の大学進学を目指す若者が多く、そのためデカセギとしてヤマを出る青年が後を絶たないからだという。
 「親たちも農業を強要しないが、本心は帰って来てほしい。農業以外でもここでやれることがあるのでは」との思いがある。
 その中でのクリスマス公演であったが、「昔は農場部があって、共同作業も多かったが、今はそれぞれの土地で仕事をする事が多い。そんな今、皆の気持ちが一つになるのがこのクリスマスの舞台なんです」と笑顔を見せた。