コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年2月8日付け

 リオが43度とかになり、サンパウロも暑い。さながら日本の真夏日のようだし、夕日が沈む頃ともなれば、氷が浮く冷たい素麺や韓国の冷麺の舌触りが堪えられない。酒も冷たくし、酒器もカットグラスにし、これを傾ければ、日ごろの憂さも吹き飛ぶというものだ。と、筆を進めると—いやいや炎暑だからこそ「鰻です」の古典派からちょいとお節介が入るかも知れませんが、これはこれで一理あるので聞き捨てる訳にもいきません▼万葉歌人・大伴家持には「石麻呂にわれ物申す夏痩せに、よしといふものぞむなぎ取り召せ」があり、奈良の昔から夏ばて防止には,滋養豊富な鰻がよく効くの話があったらしい。尤も、貴族らは敬遠したようだし、どこまでも庶民の好みであり、丸いままの身に塩を振って焼いたのを食べエネルギーを蓄えたのが真相に近く、今の蒲焼は江戸の末ごろに発明され江戸っ子の舌を痺れさせ人気を呼んだそうだ▼だが—この「鰻」には謎が多い。先ず生誕の場所がわからない。日本の農家などでは、山奥の渓流での伝説があるし、ギリシャの哲学者アリストテレスは「泥の中から生まれる」と書き残している。ニホンウナギの誕生地は列島から南へ約2000キロのマリアナ諸島沖とわかったのが、2005年なのである▼そして昨年の5月に東大の塚本勝巳教授らがグアム島に近いこの諸島の海でニホンウナギの卵31個を採集している。勿論、人類が初めてお目にかかる産卵であり、その功績は大きい。きっと天国に眠るアリストテレスもにやりと苦笑し「参った」と呟いているに違いない。(遯)