日本語教育リレーエッセイ=第19回=ルーツ探し:1=日本語のセンセイの独り言=レジストロ日伯文化協会日語校=福澤一興

ニッケイ新聞 2011年3月5日付け

 私が日ごろ考えている、レジストロの日本語学校の現状と私なりに日本語について考えている事を記してみたい。
 レジストロ文協の日本語学校はここ数年来70名前後の生徒が学んでいて、その内分けは8割弱が主に日系三、四世の児童生徒で残りは日系、非日系の成人である。教師は3名で2名の女性の教師は児童を、そして私は成人のクラスを受け持ち始めてやっと5年目を迎えた。が、私は若くはない70歳のジジイである。
 これまで〃モノ作り〃で生きてきた私はどんな仕事にも一つのサイクルがあり、そのサイクルを積み重ねることで熟達し、いわゆるベテランといわれるようになるものとばかり考えていたが、教室の中の私にはまだそのサイクルがあるのかどうかさえ見えてきていない。
 失礼な言い方を承知で言うと今の私がお相手しているのがモノとヒトの違いから来るのだろうが、それにしても今でも授業の前には緊張感が伴う。この緊張感が消えたときがベテランの域に達したといわれるのだろうが果たしてその日が来るのかどうかさえ分からない。言い換えれば毎日が〃新しい〃といえる。
 教壇に立ち始めて2年目を迎えた頃、フト、私の生徒はもしかしたら日本語学習を通じて自分のアイデンティティーをしっかり掴みたいのではないかと感じたので、それならばそれも授業の目的の一つに加え少しでも手助けになればと考え授業時間の一部を歴史や文化について話し合う時間を設けた。
 授業の内容は多岐に亘るが基本的には私も一緒になって『私たちって何だ』という事をコツコツと『お勉強しましょう』そしてこれを続ける事で生徒が素直な気持ちで何かを掴んでくれれば良いがと(とてもむずかしいが)願っている。
 が、問題がある。そもそも、私自体こんな事になろうとは今まで思ってもいなかったので分からない事ばかりか、生徒の質問に答えられないこともしばしばある。分からない事は聞いてください、その場で答えられなかったら家に持ち帰り調べてお答えします。とこの授業を始める前にいった手前もあり、私の教室では先生から生徒への宿題は出さないが逆現象は日常茶飯事である。
 この様に誠に頼りないセンセイであるが私は文協の教育部長も兼任させていただいている。
 冒頭に書いた通り、文協の日語校の生徒数は現在横ばい状態である。今後この数字が増えるのか減るのかわからないが、これが日系家族数が1千数百を数える地方の都市で、日本人が作った最初の植民地の現状である。
 これはいずこでも同じであろうが児童生徒の父兄の日常語はポルトガル語であり、児童の一日もブラジルの教育を受けるほかにもさまざまなスケジュールでうまった生活を送っている。
 このような状態の中でレジストロの日系社会全体として過去において、一度は失わざるを得なかった日本語への関心を取り戻すのは地道な努力が求められる。
 その一つは日系社会の中心的な存在と考えられる文協の活動であり、もう一つは日語校のあり方にかかっている、と結論は至極当たり前の話になってしまう。
 まず文協の活動が日語校に及ぼす影響・効果であるが、さいわいレジストロ文協は他の文協同様さまざまな文化活動を目的とした部がそれぞれ活動していて、それらの部活動が相乗効果を生んで日語校の生徒数を維持している。もっとも、この陰で先生方のたゆまない努力があってこそということも付記しておく。
 さらに文協の活動をより多くの人に理解してもらうためにはまず文協に足を運んでもらう事だとの意味合いからと、資金集めのためレジストロ文協は今年から二月に一度親睦を兼ねた昼食会が催すことになり、近々第1回目の昼食会が開かれる。
 日語校にとって喜ばしい企画なのでこのチャンスを利用し一般の人の日本語への関心を少しでも取り戻す事が出来るように日語校も具体案の作成に取り掛かった。
 レジストロの文協は、何が何でも日語校だけはというような雰囲気は無いが極めて、現状に沿ったあり方を維持し日語校に対応してくれているのでこれはありがたい。
 二つ目の日語校のあり方のついては一言で言えば継承日本語教育という事に落ち着く。ただし、うわべだけでは困ると考えている。
 かなり以前、サンパウロ近郊の日系社会のリーダーと話をしていた折に話題が文協の事になり、そのリーダーが『日本語学校を中心にすえないで何のための文協だ』と言われたのを今でも覚えているが、そのような考え方が普通の考え方だとする世代が減少し続ける現在、日語校と日語校教師はともすれば孤立状態に陥らないとも限らない。これからは教師の横のつながりを強めるため、と言っても傷の舐めあいと言う意味ではない、日本語センターをはじめ、聖南西教育研究会の存在は重要性が増すと考える今日この頃です。

写真=福澤さん(右)