コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年4月12日付け

 海岸山脈のクワレズマが、色鮮やかに咲き誇り秋の到来を語りかける。米や大豆の収穫もだし、果物もたわわに実り、街角の店頭には見事なばかりの梨、リンゴや柿が艶やかなばかりの肌で客らの足を停める。今さら言うのもおかしいけれど、これらの果物は日本の専門家が来伯して技術指導したものであり、言わば「日本の果物」である▼あの「富士」の植栽の研究に後沢博士がブラジルに来てからもう40年になるが、1970年代の初めに「サ・カタリーナはリンゴ栽培に適した地」と語ったが、確かに—「富士は美味い」。あのラーモス移住地には、「幸水」などの梨が立派に育ち、聖南西でも確か「豊水」という梨の実が甘い。がぶりと噛み砕くと、あの甘み豊かな果汁が口の中に広がり浮世の憂さが飛び散り口福の酔いに溺れてしまう▼リンゴも梨も、寒さがないと旨いものはできない。そんなことから南伯地方が選ばれたのだし、これは戦後移住の大成功の一つ。富有柿は今やブームになっているが、これも気候が原因してサンパウロ州がよく育つ。耳食ながら—糖度も日本より高いそうだし—これも香りがとてもいいし「実に甘い」。このカキも、どうやら、中国からの伝来したものらしい▼故・牧野富太郎博士は、野生カキなどから日本原産説だが、異説も多く、今もはっきりしない。リンゴにしても、酒乱で妻斬殺の嫌疑も濃い黒田清隆(首相)が明治4年にアメリカから75品種を持ち帰っている。大正年間には約60、昭和になると500品種も取り寄せているのだから、どうやら「富士」の祖先も、あるいは欧米系なのかもしれない。(遯)