コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年7月2日付け

 日本はまだ6月なのに埼玉・熊谷が39・8度の猛暑に見舞われ、列島も50数ヵ所が35度を突破する暑さが続く。南国のブラジルは、暦が冬の到来と告げるやいなや寒暖計が急激に低下し、ここサンパウロもぶるぶると冷え込み寒い。暖炉に真っ赤な炎を燃やし暖まる方々が羨ましく、こちらは厚い毛布をかぶって椅子に座りビデオのチャンバラを楽しむしかない▼生まれ育ったのが東北の山奥であり、冬ともなれば、山々は真っ白の雪に覆われ、沼や大きな川の岸辺も凍り、子どもらは、下駄スケートで寒風を突き切って滑り込む。水銀柱が零下になっても若さが「寒」を吹き飛ばし、戦後の物不足のせいもあったけれども、足袋も履かずに下駄履きで往来を闊歩したのも懐かしい。それなのに—老残の身になると、ちょっと冷えが強くなると、すぐに悲鳴を上げるのは、我がことながら、とてものほどに哀しい▼この「寒さに強い子」は、世界の国々が同じらしく、ブラジルの南部の子どもらも、厳寒の吹雪のなかを笑顔で走り回り大喜びである。サ・カタリーナ州のウルペマはマイナス9度、リンゴの里・サ・ジョアキンが零下6・8と寒い。南大河州も冷寒が続く。山や野は極寒だけれども、家の中は暖かい。大きな薪ストーブが赤々と燃え、上の平たいところの薬缶からは、もうもうと白い蒸気が噴き出し、寒さを追い出している▼あの田舎式の竈もいい。ちょっと見ると旧式に見えるが、とてもほのぼのとしており、身体の芯から暖めてくれる。冬が到来した厳寒の中でも、こんなおだやかな暮しがあるのはなんとも楽しく微笑ましい。(遯)