楠野隆夫没後10年=舞踏での存在感、今なお=ダンサー、友人らが人柄偲ぶ

ニッケイ新聞 2011年7月5日付け

 「アリクイの目」「キメラ」などを創作し、ブラジルを拠点に活躍した舞踏演出家・楠野隆夫氏の没後10年を記念した追悼イベントが5月24日午後9時から、SESCピニェイロスで開催された。氏の友人や縁のあるダンサーら約50人が出席し、遺徳を偲んだ。
 隆夫氏の生前、公演を手伝っていたリカルド・フェルナンデス氏と建築家の松家英樹氏の企画によるもの。
 会の冒頭、親交があった舞踏家のドルチ・レルネル氏(79)が照明を落とした舞台で「アリクイの目」の踊りを再現。譲り受けた隆夫氏の母親の着物を抱き締め、「タカオ」と呼びかけた。
 その後、ダニーロ・トミック氏の尺八の音に合わせ、造形作家の吉沢太氏が「夢追いて鷹舞踊る天高く」の句を大筆で壁一面に書いた。
 兄の楠野祐司氏は挨拶で、「彼の才能を開花させたのはブラジルだった。他界から10年もすれば存在も忘れ去られるものだが、こんな機会を与えてくれた皆さんに感謝します」と述べた。
 会場には若い頃の隆夫氏の写真が並べられ、参加者は懐かしそうにアルバムをめくっていた。
 ドルチさんは、「練習では多くを語らず、目で訴える。その思いを何とか踊りで表現しようとした。その濃密な時間が踊りだけでなく、人生の方向性まで示してくれた」と振り返る。
 友人の弓場勝重さん(64、二世)は、「自分でも気付かずに人の魅力を引き出せる人。吉沢氏の力強い字も、隆夫が書かせてくれたようだった」と故人に思いを馳せていた。