コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年7月27日付け

 パラナ州都クリチーバは実に不思議な町だ。白人の比率が高く、町並みが整然としていて、路上生活者が少ない。まるで欧州にきたかのよう▼市単独なら175万人、大クリチーバ都市圏なら317万人もの人口を数える大都市にも関わらず、深夜営業するレストランもボアッチもほぼないという珍しい町でもある。何人ものタクシー運転手に尋ねたが、異口同音に「夜は家族と過ごす習慣があるから夜遊びしないんだ」という。もちろん寒いのも理由の一つだ▼にも関わらず、92年にブラジル初の24時間街(Rua 24 Horas)という、終日営業の商店が集まった通りができたのも不思議な出来事だった。大々的に報道されて34店がぎっしりと並んだが、閑古鳥が鳴くようになり、07年にいったん閉鎖した。市が400万レアルを投じて改修し、この6月から店子の再募集をしている▼同地のポスト・デ・サウーデでも肺病の注射を打ってもらった。サンパウロ市では待ち時間が平均30分前後程度だが、ここは待ち時間ほぼゼロで名前が呼ばれ、「さすがクリチーバだ!」と驚いた▼翌日、待合室で品のある背広を来た、この町では極少ない黒人系中年男性が、「自分は一番に待合室に来たはずなのに、もう4人も後からきた人が診察室に呼ばれて入った。どうしてだ」とブツブツ言っていた。サンパウロ市の黒人なら怒鳴っていたかもしれない。心の中で「もしかして肌の色で・・・」と思った▼同地には黒人文化の雄であるエスコーラ・デ・サンバどころか、ブラジル式カルナバル自体がないことを思い出した。真夜中に大騒ぎする黒人系ラテン文化はこの町には似合わない。でもこの多様性こそがブラジルなのだ。(深)