コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年7月30日付け

 近頃はアメリカを始め銃乱射による殺人が多い。韓国人学生によるバージニア工科大学の33人殺し、韓国では、1982年に警察官だった禹範坤が、些細なことから泥酔しカービン銃を乱射し58人(61人説もある)を殺害した記録があり、世界史上最大の大量殺戮とされていた。ところが、ノルウェーでは22日に90人超かの若者らが反イスラム派を名乗る32歳の男に銃殺されるという惨事が起きた▼今は「平和な福祉国家」として知られるが、8世紀からヴァイキングが活躍し、スカンジナヴィアの海賊と恐れられた国での悲劇である。コロンブスの発見よりも500年も昔にノルウェー人のレイフ・エリクソンは、アメリカ大陸に着くなど世界の航海史に輝く功績もあるし、学界でも最近はヴァイキング見直し論が強い。だがーこのオスロ事件には、謎?が多い▼犯人の自供などにも、どうやら狂気のようなものがあり、犯行の理由も判然としない。しかし、ノルウェーの政権が推進してきた移住政策に対しはっきりと反発している。この国は人口が450万人であり、移民導入には積極的に取り組み、約50万人がイスラム系統と見られる。このため失業問題と絡めての反対論は根強い▼こうした移民排斥の動きは北欧だけではなく、独仏などでもイスラムの女性たちの顔を隠す「ブルカ」などの使用禁止令が出るなど「多文化共生」の理想はもろくも崩れそうになっている現実をも直視したい。スウェーデンやフィンランドでも反移民の右翼?が議会に進出しているし、こうした世論を背景にした大量殺人の見方も成り立つ。(遯)