リオのロッシーニャ潜入?!=ファベーラ観光体験記=最大級の貧民窟の現実は

ニッケイ新聞 2011年8月5日付け

 【長村裕佳子記者=クリチーバ通信員】新たな観光場所としてリオ市のファベーラを訪れるツアーが、外国人旅行者などの間で注目を浴びている。外部の人間が入り込むのは非常に危険なファベーラだが、地元住民と親交のある現地ガイドの案内のもとで訪れなら身の危険はない。欧米の有名人が来伯した際にはかなりの頻度で訪れることはもちろん、『シダージ・デ・デウス』などの国際的評価の高い映画の舞台になっている。その一方で、国内的には悪いイメージばかりが先行し、実際に足を踏み入れるにはやっぱり躊躇することもたしかだ。サッカーW杯やリオ五輪などもあってリオ観光はますます脚光を浴びる流れにあることをうけ、ファベーラ観光を体験し、住民たちの笑顔、独特の文化を垣間見みてみた。

 リオ市内の滞在ホテルに迎えの車が到着してツアー開始した。記者が参加したアメリカ人など約10人を連れたグループは午前10時、リオ市南部の道路沿いに位置するファベーラ・ロッシーニャのふもとに降り立った。ファベーラの丘(モーロ)は高級住宅街の間にそびえ、その対照的な景色が観光客を圧倒する。
 麻薬組織が蔓延ると恐れられるリオ最大級のファベーラ・ロッシーニャは人口6万人で、小さな市町村にも匹敵する大きなコムニダーデだ。道路沿いの小さな商店街が入り口となっていた。
 そこから見上げたファベーラに入る道は、胸突き八丁の急斜面が続いている。「こんな坂を歩けるのだろうか」と頭を傾げる観光客たちを前に、ガイドは二輪タクシーを指差した。ファベーラ住民も利用するという二輪タクシーの運賃は1回2レアル。一行は、1人ずつ別々のバイクを頼んで頂上付近へ向かった。
 ここからは同ツアーを14年間運営するという、ベテランガイドに導かれてファベーラ内を歩いて下りる。誰が銃器を持ち歩いているとも分からないファベーラ内で、住民の機嫌を損ねてはいけないからと、特定の場所以外での写真撮影が禁止された。
 銀行、飲食店のたち並ぶ商店街の脇から住居間の小道に入ると、壁と壁に囲まれた薄暗く、湿って足場の悪い通路が続いていた。道に溢れた排泄物、家庭ゴミを避けながら注意して通り抜ける。よく目を凝らして見れば、家々の壁には、打ち込まれた銃弾の生々しい跡が残っている。
 外国人観光客がカメラ片手に興味深々の様子で見学していたすぐ横で、悲しそうな表情を浮かべていたのは、唯一のブラジル人参加者のフフィーナ・ボラニさん(23)。「同じブラジル国民でこんな生活をしていた人がいたなんて—」と、現実を目の当たりにして大きなショックを受けた様子だった。
 一行を驚かせたのは、同地を訪れる外国人観光客に慣れている住民たちが愛想良く接してくれること。大人だけでなく、子供たちも不慣れな英語であいさつしてくる。大きな銃器を手にする住民とも笑顔で言葉を交わすガイドは、ツアー客一行を紹介。サンバを練習する少年たちはガイドの提案で即興のドラム演奏を披露し、一行を楽しませた。
 ファベーラ内には独特のアート(芸術)が存在する。窓から見える街の景色を描いた絵画が観光客向けに売られるほか、通り道の土産屋には「ROCINHA」の文字の入った手工芸品も並べられている。一行はふもとへ降りる道中で買い物を楽しみ、ランショネッチでサウガード、ドッセを試した。
 ファベーラには食料品店、美容室などの商店、公立学校があり、その中だけで日常生活が完結できる。衛生管理を支援する福祉施設、集中豪雨の緊急災害時立ち寄り所が備わっているほか、現在は建築家オスカー・ニーマイヤー設計の建築物も計画中だ。
 同地で働くソーシャルワーカーや同ツアーガイドによれば、一般のブラジル社会から切り離されたファベーラの住民にとって、外部社会からの訪問者は案外嬉しいものだそうだ。同ツアーは「ファベーラの悪い所を知ってもらうだけでなく、独特の文化を知ってもらうこと、外部社会の人とファベーラ住民との交流を目的にして続けられている」という。
 同ツアーは毎日実施され、所要時間3時間、1人65レアルで参加できる。毎週日曜の夜には、ファベーラ内で開かれるフェスタにVIP席で参加する観光ツアーも行なわれている。▼電話=21・9643・0366、サイト=www.bealocal.com