往年の名浪曲に感激=老ク連で特別に鑑賞会

ニッケイ新聞 2011年8月9日付け

 ブラジル日系老人クラブ連合会(五十嵐司会長)が主催する浪曲鑑賞会が7月30日に、サンパウロ市の同会館で行われ、約30人が往年のコロニア浪曲名人・天中軒満月の口演のレコード音声に熱心に聞き入った。最初に五十嵐会長は「浪曲を聞きながら、先人への想いを馳せましょう」と呼びかけ、一堂は静かに耳を傾けた。
 「死んだ母の乳房にすがり〜っ、そのまま死にゆくみどり児や〜」。浪曲「平野運平」の三味線伴奏が哀調を奏で、力のこもっただみ声がスピーカから流れる。
 来場者の多田登(ただ・のぼる)さん(77、千葉)は「何年も聞いてなかったが、やはりコロニア浪曲はいい。ここならではの話の方が心に沁みるね」としみじみ語った。渡伯前には浅草国際劇場にちょくちょく浪曲を聞きに行ったほど好きだという多田さんは、コロニア名人の花中軒水月と今野吉郎の大ファンだったと思い出す。「今でも現役の中川芳月は横綱だよ」。
 続いて浪曲「笠戸丸」では「銃をとっては戦場で命を捨てて国のため、斧を握れば密林で、生き抜いて開拓続けた猛者も病に勝てず床の中〜っ」と流れると、観客は画面に映されたセリフにじっと目を凝らした。
 永田敏正さん(71、岐阜)は「たまたま来たが、とっても良かった。僕らは戦後移民で、生きた時代は違うが、どこか懐かしい感じがして感激した」とし、森田富久子さん(ふくこ、69、東京)も「こういう立派な物語が忘れ去られるのはもったいない」と惜しんだ。
 五十嵐会長によれば、この浪曲レコードの持ち主は野尻耕造さんだが、3年前に亡くなったため、未亡人・武子さん(たけこ)から連合会に寄付されたもの。五十嵐会長がDVDに録音しなおして当日再生した。