コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年8月11日付け

 今年の広島、8・6。菅直人首相が式典に出席した。ま、そんなことはどうでもいい。復興の象徴だった東洋カープが53年ぶりに公式試合を行ない、プレー前には、昨年のジュネーブ国際音楽コンクールで優勝した地元出身の萩原麻未さんが被爆ピアノで鎮魂の調べを響かせた▼広島に原爆が投下されてから66年。開催決定が遅れたため広くは知られなかったが、5日夜、イビラプエラ公園の日本館前で広島県人会主催、サンパウロ市、文協、東本願寺の後援により被爆者追悼式典が行なわれた=9日付け詳報=▼中心になったのは、同県人会の理事で父俊治さん(67)が被爆者の森本直美さん(35、二世)。「平和を目指し美しくなった広島に感動した」。人間の強さと悲惨な歴史を自分の国ブラジルに伝えたいとの思いから、帰国後、公立校の教師を務める友人らに呼びかけ授業の一環として平和教育を行なうことに▼この運動に野村アウレリオ市議も賛同し、被爆追悼行事としてはサンパウロ市が初めて協力、同公園の池に灯籠を流すことを許可。救急車まで出動させ、原爆投下時間にあたる「5日午後8時15分」にサイレンを鳴らし、犠牲者の冥福を祈った。同様にその時刻、街全体にサイレンが鳴り響く広島の暑い朝を思った▼子供たちは灯籠も作った。200個に次々と灯が点けられていく。覗いてみると、ロウソク立てにブラジルの牛乳パック。仏式の焼香スタイルにためらいつつ、手を合わせる子供たちの姿に核兵器のない未来を願わずにはいられなかった▼平和の尊さを伝えるこうした動きが次世代により、当地で始まったことを喜びたい。(剛)