伊系子孫の本国就労描く=映画監督を招聘し鑑賞会=デカセギと同じ軌跡辿る=130周年記念行事の一環

ニッケイ新聞 2011年10月6日付け

 ♪メリカ、メリカ、メリカ、何に出会うだろう? 新大陸に向かうイタリア移民の気持ちを歌った有名な曲から題名を取ったドキュメンタリー映画『MERICA』(2008年、イタリア、フェデリコ・フェロネ監督)が10月から始まるイタリア移民130年祭(伊伯年)の一環としてサンパウロ市セントロのUNESP出版社講堂で上映され、同監督を囲んでイタリア系子孫ら20人が観賞した。企画したアントニオ・フォルキット・ヴェロナサンパウロ州立大学(UNESPアシス校教授)は、「本国では70年代からブラジル移民のことは忘れ去られていた。この映画が今イタリアで製作されたことの意義は大きい」と語った。

 フェロネ監督は若干30歳、新進気鋭の映像作家だ。「ブラジルから来た子孫はイタリア人がやりたがらない低賃金で厳しい労働に従事し、国の発展に貢献してくれているにも関わらず、〃外国人〃として差別されている」という姿に興味を持つようになったという。「入移民国となった今のイタリアは、もう二度と元には戻れない」との想いを映像に託したという。
 90年代から急激にイタリアで増えた入移民、特に伊系ブラジル人が本国のパスポートを取得して戻ってくる動きに注目し、1890年代に最盛期を迎えたブラジル移民とその子孫の歴史と体験を織り込みながら、丹念にイタリア版〃デカセギ〃の姿を追った作品だ。
 イタリア移民は1875年から1920年の間だけで150万人も来伯した。その子孫は本国の国籍が取得できることから、現在では逆転現象が起き、30万件以上の伊国籍のパスポート申請が在伯イタリア総領事館になされており、映画の中で総領事が「全部処理し終わるのに15年間かかる」とコメントしている。
 「自分はブラジルで生まれたイタリア人だ。イタリアで新しい人生を切り開くつもりだ」と熱く語る子孫の情景から映画は始まり、途中には「国籍があるにも関わらず、外国人扱いされて屈辱的だ」というセリフになり、最後には「お爺さんから幻想を植え込まれてきたことが分かった」と幻滅する子孫の心の軌跡が描かれている。アコーディオンの伴奏で楽しげに『メリカ』を歌う移民の姿が深い印象を残す。
 当日は、同教授が研究を進めているヴィセンザ県スキオ(SCHIO)地方出身者の子孫が会場に20人ほど集まった。観賞した子孫からは「お爺ちゃんたちは僕らにとっては英雄的な存在だが、イタリアでは辛い生活との戦いから逃げた逃亡者だと思われていることをはじめて知った。ここには自分たちが知らなかった現実が沢山描かれている。ぜひ親戚などの集まりでも見せたい」とコメントしていた。
 各々の家族の歴史を紹介する中でシウベリロ・クリタナさんは、「第2次大戦で父はブラジル派遣軍(FAB)としてイタリア戦線で戦った。父はいつも『自分はブラジル人だ』とことあるごとに言っていたが、休日には必ず、チーズのかけらを片手にちょびちょびとワインを傾けた。あのイタリア人らしい姿が忘れられない」と語った。
 フェロネ監督は9月26日から10月7日までアシス校で開催中の「イタリア・ブラジル=映画と移民国際シンポ」のために招聘された。移民体験は民族を超えて共通点を持っていることが痛感される意義深い移民周年イベントとなった。