パラグアイ=イグアス移住地存亡の危機か=土地なし農民が不法占拠=背後には大統領との説も=「退路を絶たれた戦い」

ニッケイ新聞 2011年11月10日付け

 8月に入植50周年を祝ったばかりのパラグアイのイグアス移住地に9月末、約100人ものセンテーラ(土地なし農民による土地不法占拠運動)が侵入し、入植者らは大変な危機にさらされている。同地の日本人会(福井一朗会長)が中心になって農協や市役所、商工会と協力し、対策委員会(15人)を設置し、道路封鎖をして政府に圧力をかけ、とりあえずセンテーラを追い払った。今も地区ごとに当番で寝ずの番をするなどの監視体制を敷いて再侵入阻止に備えるなど、またまだ気の抜けない状態が続いている。

 日本人会で働く澤村壱番さん(45、高知)は「毎日ではありませんが、地区の見張り当番の日でも勤務は休めないので、行ける範囲で現場に行き泊まり込みの徹夜で監視し、配給の食事を摂り、早朝には市街地に戻り、普通どおり出勤しています」と現地の張り詰めた空気を伝える。
 不法侵入があったのは9月28日未明のことで、移住地の北西端にある日系人の土地に約100人が小屋を建てて住み着きはじめた。
 センテーラは、「イグアス移住地の土地は測量が間違っていて、実際よりも1万8千ヘクタールも多くなっている。だからその土地は自分達のものだ」と主張しているという。
 彼らが持参した地図には、同移住地が実際よりも西方向に十数キロも長く描かれており、まったく現実と異なる情報に基いて抗議行動をしており、最初から議論がかみ合わないようだ。
 最近、同移住地近くのドイツ系ブラジル人が多いサンタマリア市でも同様の問題が起き、抵抗したブラジル人農場主が銃殺される惨劇となった。この時はドイツ系移住者をはじめ、日本人移民も大型農機を国道に並べて、問題が起きればすぐにでも封鎖して政府に取締りを要求する圧力をかけた結果、不法占拠者らは排除された。
 今回、侵入者等のリーダー格が「自分は大統領の従姉妹だ」と自己紹介していることから、事態は複雑な様相を呈しているようだ。
 現地の新聞報道によれば、現大統領は外国人の土地の取り上げを進めており、土地なし農民の不法占拠の背後には大統領がいて、警察や司法関係に圧力をかけ、解決を長引かせているとの情報が流れている。
 現地報道では、10月26日にパラグアイ政府は国境から50キロ以内の国境防衛地帯に関する法律を公布し、「国境を接する外国人の土地所有を認めない」方針を明らかにした。
 ただし、今のところ、「05年までに所有した土地については既得権を認めるが、パラグアイ人以外に売ることはできない。05年以降に外国人が取得した土地は違法であり、所有を認めない」というものだ。
 ブラジル人やアルゼンチン人が主な対象だが、国境から50㎞以内には、ドイツ人、ウクライナ人の入植地、日本人のラパス、ピラポ、イグアスの大きな移住地があり、地権作成過程での書類の不備を指摘され、没収される恐れもあるとの不安が高まっている。
 不法手段による応酬もいとわないブラジル人や欧州移民に比べ、温和な日本移民はこの手の勢力から狙われやすいと言われており、今後の成り行きからは目が離せない状況だ。
 同移住地から日本の理解者向けに事情を説明した文書は、「日本人移住者は前からは不法占拠を受け、背後からは国境50㎞問題で攻められ、引くに引けない、退路を断たれた戦いを続けている」と緊迫した情勢を伝えて締めくくっている。