コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年11月24日付け

 ブラジルにいると日本のサービス精神の徹底ぶりに感動する。各階で頭を下げ続けるデパート社員を見ると気の毒でしかないとも思うが「お客様は神様」であり、言い分はほぼ通る。一方、ケチをつければ得をすると考えるクレーマーがはびこりストレスも溜まる▼アパートの電気を自分の名義でつけることに。電話で依頼すると「48時間以内につく」という。のん気に構えていたが、それが長いトンネルの始まり。何度頼んでも担当者がこない。通常、対応が悪ければ他の店で買えばいいが、独占であるから始末が悪い▼電話で7人と話したのだが、それぞれが違う対応、説明をする。あきれ果て「PROCON(消費者保護センター)に相談するぞ」との言葉に「どうぞ、どうぞ」と返ってきたのには、組織のシステム、それ以前に個人の感覚の違いに圧倒される思いだった▼〃光〃が見えたのは2週間後。責任の追及など露も思わず、例えは大げさだが、電化された移住地の感動を少しだけ分かったような気さえした。「こんなこともロクにできず五輪開催なんて…」と心の中で毒づきはしたが▼そういえばコロニアで声を荒げたり、怒りを露わにする姿をあまり目にすることはない。怒るのは相手に責任感があればこそで、正しい対処の仕方ではない。感情に流されず、粘り腰で処理していくという気構えが大事だ。期待しないという諦めも処世術だろう▼不意にやってくるこうした程度の低い我慢比べだが、ブラジルを嫌いにならないのは、無駄と思える時間の中で他人の優しさに触れたり意外な発見をすることだ。日本にはない修業のスタイルと考えたい。(剛)