第18回=失業した若者を海外へ=100億円基金で多言語人育成

ニッケイ新聞 2011年12月21日付け

 「全国テストの沖縄の結果は全国最低、若年失業者は全国最高。笑えない数字です。我々はこの状況を移民の先人に学び、逆転の発想で乗り越えなくてはならない。若者を海外に出すことで救う、万国津梁人〃財〃という考え方で短期交換留学をしたらどうでしょうか」。
 10月15日、宜野湾市・沖縄コンベンションセンターのワールドウチナー・シンポジウムで金城和光さん(沖縄ヒューマンキャピタル社代表取締役)は、講演でそのような提案をした。
 沖縄を小国にたとえ、08年世界競争力年鑑5位のルクセンブルグに学ぶヒントとして、「語学力と多国籍の事業集積が競争力の源泉」だと論じ、沖縄が経済発展するには「中国およびインドのアジア市場を見据え、英語、中国語の徹底した教育とアジア市場への事業展開が必須」とする。
 さらにシンガポールや香港から参考にすべき点として、人材育成・教育に投資してバイリンガル人材を積極的に育成している点を挙げた。また世界の華僑ネットワークが4千万人でアジア、北米などに幅広く展開していることを指摘した。
 沖縄県の現状は15歳〜39歳までの若年失業者が3万人もおり、生活保護受給者が1万8千世帯に414億円もかかっている。完全失業率は7・5%(09年)と全国最高で、中学レベルの全国学力テストの県別集計で最低点を記録したことを関係付けた。
 県の大学生へのアンケート調査で「自分を変えたい」「自分の夢や目標、やりたいことを見つけたい」というのが願望であることを挙げ、彼等こそ「グローバル人〃財〃」になる可能性があるとして「万国津梁人材育成」のモデルを掲げた。
 海外の県系人の家庭に、県内の中高校生や大学生の夏休みの短期ホームステイを受けいれてもらい、代わりに県系人の若者を母県で受けいれ、航空料金のみで相互国際交流ができるという仕組みだ。この制度を通じて、英語、中国語、スペイン語、ポ語に通じた人材を育成し、県の発展に役立つ人材とする構想だ。
 さらに、在外者の視点から県に提言する役職で、大会シンポなどの機会に自分の考えを述べるウチナー民間大使と、世界の県人会代表が集まって論じ合う会議でも、この提案が議論された。
 結論として、若者の海外留学や在外子弟を受けいれるなどの交流を進めるために100億円規模の万国津梁(しんりょう)基金を作る提言がまとめられ、仲井眞弘多知事に提出されて実施に向けて動くことになった。
 大会において琉球王朝はただの歴史ではなく、伝統となって生き続け、「あるべき理想像」を現代に照らし返している。
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 もう一つの会議、グローバル若者シンポで提言されたことの一つに、今まで南米の沖縄系若者だけで行なってきた「ニセイタツウ」(若者交流会)を、来年のブラジル大会から若者版世界のウチナーンチュ大会に拡大するという提案がある。
 今までペルーで1回、ボリビアで1回、アルゼンチンで2回行われてきた。企画も実施も運営も若者が中心になってやり、元々は一緒に観光旅行したり、フェスタをする交流会だ。
 しかし、来年のブラジル大会からは母県も含めて世界中の沖縄系の若者が集まることになった。与那嶺会長は「南米だけでひっそりやっていたんだけど、急に県庁からもコンビッチをくれっていう話になって大きなイベントになり、僕らの方がびっくり」と大会の成果を喜ぶ。5年の一度の世界ウチナーンチュ大会の間に、若者版が海外で開かれることになった。
 100億円の基金を作って人材育成に投資し、次世代に向けた若者の交流に重点を置くという、20年後、30年後を見据えた動きが本格化した。(深沢雪記者、つづく)

写真=金城和光さんが「問題提起」した文面