コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年12月24日付け

 あの北の国から「金正日総書記死去」の重々しいTV放映があったが、視察のため列車で旅行中に急性心筋梗塞で倒れ69歳の生涯を閉じたと女性アナウンサーは語った。金王朝の2代目は、飛行機が大嫌いらしく、ロシアや中国を訪問するにも「お召し列車」でゆっくりの旅が好きらしいが、泉下への旅立ちも愛する列車だったのは、さぞや本望だったに違いない▼この人は軍事優先の「先軍政治」を進め、核実験や弾道ミサイル発射に熱心であり、国際的な孤児となったが、それでも「軍事強国」に走り続けるという謎に満ちた一生だった。韓国の全斗煥大統領を狙ったラングーン爆発事件や大韓航空機爆破事件も、金総書記の命令だったの疑いが濃い。勿論、北朝鮮は事件への関与を否定しているけれども、容疑者と犯人は北朝鮮の人だし、これはもう「金王家の暴虐犯罪」と断じていい▼民草は飢餓に泣き、食べ物を下さいと国連や仇敵のアメリカにまで救援を求める図太さは、闇の国の奥深い真っ黒な洞窟からはじき出されたものと見える。こんな「負の遺産」を背負う三代目の正恩氏も謎ばかりが目立つ。28歳ながら急遽—大将になり黒い国民服?姿で金総書記の遺体に向かうが、あの国をきちんと維持できるのかどうか?である▼「軍事、語学、コンピューターの天才」と、官製宣伝が姦しいが、これは金王朝の得意技であり、すんなりと聞き流すのがいい。日本にとっては拉致という厄介な難問を抱えているが、今は唯—危険な弾道ミサイルなどに取り付き外国への挑発に走らないように—と乞い願うばかりである。(遯)