中村勉のイビウナ庵便り=電力の安定供給

ニッケイ新聞 2012年1月19日付け

 現代文明は電力の成果だ。電力の安定供給こそが現代文明の基礎だ。それ故に世界の目はフクシマに集まっている。フクシマが日本の問題に止まらず、世界の問題になっている所以だ。嘗ては、原子力発電こそが大きなリスクがあるにも拘わらず、希望の星だった。しかし今や、フクシマが希望の星に待ったをかけた、かけている。
 日本は現在、54基の原子力発電所を持っているが49基が停止している。即ち、54基のうち稼動しているのは5基、全体の1割に満たず、停止中の49基が再稼動する見通しも立っていない。言い換えれば、目下の処、原発が電力供給の最大の不安定要因になっているわけだ。こと志と異なり、そうなっている。
 従来、安定供給の条件は自然科学(原子物理学やプラント・エンジニアリング)に任されてきた。しかしフクシマ後、自然科学の守備範囲は必要条件に過ぎないことが一層明白になり、国民のコンセンサスが絶対条件になった。科学者やエンジニアが〃Go!〃と言っても、民意が“No!”ならば、原発は動かず無用の長物(Cost)に化する。賢者が愚民をバカ・チョン呼ばわりしても、始まらない。日本発世界の問題は、厄介なことになっている。
 既存原発の再起動には、現在行なわれているストレス・テスト以外に使用済み核燃料の処理という難問題が控えている。長年漂流している再利用プルサーマルが運転可能になっても、フクシマ後は、最終核廃棄物の持って行き場所を日本で見つけるのは一層困難になった。
 日本は近い将来枯渇する化石燃料に当面頼っているが、そのコストは上がり続け、それを緩和しているのは、皮肉なことに、円高ドル安だ。輸出依存企業は、やっていけないと言い、外国産食糧の輸入阻止でしか存続できないと主張する農水省・農協族は、円高の恩恵を受ける消費者(民意)と利害相反する勢力になっている。市場開放に反対しながら、日本を世界に売込むことは出来ないだろう。
 政治家の中で経済成長政策論者が、知ってか不知か、災害復興(有効需要)の足を引張る勢力になって、「解散総選挙だ、民意を問え」のバカの一つ覚えを繰返している。これでは、何時になったら電力の安定供給という最重要問題に取組めるのだろうか、心配だ。
 EU諸国のS&P信用格付けが変わった。原発推進国フランスの格付けが1段階引下げられ、反原発国ドイツの格付けが最高に据置かれた。勿論、原発Yes/Noが格付けの判定基準になったわけではないが、少なくとも、原発推進=自然エネルギー反対ではなく、自然エネルギー推進=原発反対でないことを示唆している。今後、エネルギー源の多様化が進んでいく。