コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年1月19日付け

 2010年末、移民史料館で開催された「アンドウ・ゼンパチ展」が安藤の郷里、広島で今月末まで開催されている。サンパウロ人文科学研究所(人文研)の古杉征己理事の評伝を昨年、小紙でも連載形式で紹介したのでご記憶の読者も多いだろう。日伯両国で同テーマの展示会開催は初ではないか▼実現にこぎつけた関係者の誤解を恐れずにいえば、どれだけの人が関心を持つだろうか。漫画家赤塚不二夫じゃないが「それでいいのだ」と言いたい。史実を掘り起こし記録に残す。人文研の地道な活動が開花した稀な例であり、面目躍如といえよう▼人文研叢書をはじめ、ほぼ毎年出版を重ねてきた。HP上の「物故者列伝」で随時アップされるのは、歴史小説の主人公になっていいような人物ばかり。受信はさておき、これも発信することの意義を感じる▼昨年、識者を招いたシンポジウムを2回行なった。非公開での総括では、移民史、日系史、日伯関係史に加え、日本文化の研究、財団法人化、ブラジル社会との統合などが確認されたという。最後の部分だが、もちろん出版も含まれており、本山省三理事長らがポ語翻訳する本の選定を行なっているとか▼移民をテーマにする日系研究者がいないのは、資料の少なさに起因するところ大だ。つまり次世代の研究者が日本語を読めず、言葉の壁が高く厚い。すぐに結果は出ないだろうが、ポ語訳本が多ければ多いほど、後世の研究者に資すことは間違いない▼今年3月の総会を区切りに、鈴木正威所長を始め、核となるメンバーらが理事を辞任するという。新しい舵取り役に最優先して欲しい事業だ。(剛)