田中氏「新興国への関心高い」=伊に続き日本国債も危ない?=存在感高めるブラジルを調査

ニッケイ新聞 2012年2月24日付け

 「ギリシャの債務危機をきっかけに(市場の)ゲームの性格が変わった」。14日午後にサンパウロ市内ホテルでブラジル日本商工会議所が主催した部会長シンポの基調演説をした、国際公共政策研究センターの田中直毅理事長は、世界経済動向のあり方をそう要約し、日本で高まる新興諸国への関心を反映して商議所会員企業にアンケート協力を呼びかけた。
 ギリシャ危機の後、世界の投資家は次の3つの層に分かれたとみている。(1)大幅な価格変動(暴落すらも)を利用して儲ける層、(2)損失を現実化させる層(損害を抱えたが早く損切りした層)、(3)売りたくても売れない層=金融機関など(潜在的な大損失を抱えた層)。
 ギリシャの悪影響でイタリア国債も売り込まれた流れを振り返り、「日本国債がイタリア並に売られたら大変なことになる」と警告する。「イタリアのプライマリーバランスは赤字ではないが、実は日本は4月から3年程度は赤字になる」と指摘する。
 プライマリーバランスとは国の財政収支の状況を表わす指標「基礎的財政収支」のこと。国の収入のうちで、税収などの本来の収入で国としての基本的なサービス(地方交付税交付金、社会保障費、公共事業費、防衛費など)に必要な支出が賄われているかどうかを見る指標だ。これが赤字だと常に国債を発行して、未来の世代に借金を転嫁することになる。赤字だと財政状態は悪いと見られ、国債が売られるので利子が上昇して、利払いに追われることになる。
 田中氏は今後、日本は国債急落をどう避けるかという議論に入っていくと見ている。もし、急落すれば「日本国内も3層に別れ、一世代まるごと絆が断たれるのではないか。あんな状況でも儲ける奴がいると問題にされ、マーケットへの不信感を封じ込めることは難しくなる」と危惧する。
 財務状態を改善するためには増税は不可避であり、野田首相は与野党で増税を決めてから国会解散したいとしているが、決まってから解散との可能性は低くなっていると見ている。「総選挙の後に上がってきた議員には国債急落を防ぐための増税は避けられない」。
 欧州危機が続く中で、日本国内でこの議論が絞り込まれる流れにあると見ている。と同時に、世界経済における新興国の存在感は08年以降大きくなっており、昨年4月から同センターでは中国に進出している約60社の日本企業の協力でアンケート調査して、現場感覚に基く経済市況の〃等高線〃を作成している。
 「今ほど新興諸国への関心が高まったことはない」。今年からこのブラジル版を始めるに当たり、会議所会員企業の参加協力を呼びかけた。
 日本の著名なシンクタンクが世界情勢を判断するための指標に、ようやくブラジルを含め始める。今まで以上に日本からの熱い視線が注がれそうだ。