エクアドル=3・11で慈善イベント=犠牲者を追悼、文化紹介=「海外だからこそやる!」

ニッケイ新聞 2012年3月15日付け

 【エクアドル発=秋山郁美通信員】「海外にいるからこそできることをやろう」。大震災から一年を迎えた11日、首都キト中心街のカロリーナ公園で慈善イベントが開催され、2千人以上が来場した。普段からキテーニョ(=キト市民)の憩いの場として賑わう同公園が会場とあって、テレビでの告知や口コミ、通りすがりでやってきた人で会場はごった返した。

 同イベントは市内在住の日本人有志が企画した。「ありがとうEcuador~ Japon saliendo adelante~」とつけられたイベントの題名通り、被災地への追悼だけでなく、この1年間のエクアドルからの支援への恩返しも込められた。
 当日はバザーや慈善商品、日本食販売のほか、浴衣体験や折り紙、書道での名前書きなどさまざまなブースが並んだ。日本人会や日本語補習校児童、エクアドル人有志、JICA隊員らが手分けして出店し、それぞれに行列ができた。
 また、剣道教室のデモンストレーションやラジオ体操に、普段日本の文化に接する機会の少ないエクアドル人が注目して人垣を作った。
 発起人のひとり、佐藤香里(かおり)さんは昨年4月にも慈善イベントに携わったが、「その後はまたやろうとは思っていなかった」と話す。しかし仲間と話し合う中で「遠くにいると忘れかける。だからこそやる、外国にいるからこそできることがある」と気が付いた。
 コンセプトを被災地支援とエクアドルへの感謝のほか、同国への支援として、今年8月に富山で開催される演劇祭に招待された演劇グループに旅費の一部をイベントの収益から寄付することにした。「日本を知ってもらいファンを作ることが長期的には大切。テーマは助け合い」と佐藤さん。
 そのため今年は昨年にはなかった企画が盛り込まれた。来場者も参加できるロング巻き寿司作り、エクアドル国旗色の赤・青・黄色での千羽鶴作り、そして炭坑節でイベントの絶頂をむかえた。
 最初は興味深そうに日本人の踊りの輪を眺めていたエクアドル人も徐々に参加し、最後には大きな供養の輪、友情の輪を作った。
 しかし計画段階では、明るい音楽や盆踊りを入れるのは不謹慎ではないかと意見が割れたと言う。
 もう一人の発起人、キト市内で日本語学校を経営する芳村美代子さんは「短期滞在者と永住者では少し考え方も違うかもしれない。でもエクアドル人が一緒に盛り上がれてよかった、ありがとうの気持ちは伝わったと思う」と胸をなで下ろした。
 家族で来場していたマリオ・デル・トーレさんは、「テレビでイベントを知って来た。剣道を見るのも寿司を食べるのも初めてでとても面白い」と話した。
 日本食ブースを手伝ったサンパウロ出身の二世、石原記代(きよ)さんは両親が宮城県出身だという。「昨年はたくさんのエクアドル人から心配してもらった」と振り返る。「こちらではブラジルのようには日本人は溶け込んでいないけど、仲良くなれたら」と笑顔で話した。
 日本人永住者の少ない同国では、行事を毎年継続していくのは難しいが、短期滞在者ならではの日本に近い感覚で「今の日本」を知ってもらうことが両国の関係を深め「助け合い」やすくするだろう。