『孤独なツバメたち』上映会=会場が激励「どんな未来も描ける」=出演者が日本の経験語る=257人が来場、関心高く

ニッケイ新聞 2012年3月16日付け

 デカセギ子弟の軌跡を追ったドキュメンタリー映画『孤独なツバメたち』の上映会が14日午後行われ、サンパウロ市の文協ビル小講堂は立ち見が出るほどの約250人でいっぱいになり、関心の高さをうかがわせた。上映後のシンポジウムでは、出演した5人のうち現在は帰伯している3人の若者が登壇して日本での経験や意見を語り、二部では監督の浜松学院大学の津村公博教授など5人がそれぞれの見解をのべた。会場からは3人の若者に「君達の人生これから。どんな未来も描ける」と激励の声と拍手が送られた。浜松学院大学主催、CIATE、ISEC、文協、国際交流基金が後援した。

 上映後のシンポ第1部冒頭で、同映画の監督を務めた中村真夕さんの「帰伯して苦労したことは何か」との質問に、3人は「日本に慣れ、言葉も含めブラジル文化への適応が困難だった」と口を揃えた。
 松村エドアルドさん(25)はパラー州べレン市に生まれ、3歳で渡日。以降両国を行き来し、通算15年を日本で過ごした。3年前に帰伯し、現在は同州コンセイソン・ド・アラグアイアの大学で哲学を専攻する。
 「日本ではいくら勉強しても自分たちデカセギの子供にはチャンスは与えられないと感じていた。でもここブラジルでは勉強すれば、しただけ報われると実感している」ことを強調した。
 佐藤アユミ・パウラさん(19)は静岡県菊川市に生まれ育った。幼い頃から兄弟の食事を作るなどして両親を助け、中学卒業後は自動車関連工場で働いていたが、08年11月に家族で帰伯。
 現在はサンベルナルド・ド・カンポに住み、仕事をしていない両親の代わりに日中働いて家計を支え、夜は高校で勉強し、12月には大学受験を控えている。
 帰国直後は文化の違いや言葉がわからないなどの環境の急変に悩み、2カ月ほど引きこもり同然になった。しかし、持ち前の前向き思考で開き直った。
 「日本では高校を出ても工場しか働き口がないが、ここでは頑張った分だけ選択肢が増える」との考え方で現在は毎日を懸命に生きているという。
 第2部で最初に発言したカエルプロジェクト・コーディネーターの中川響子氏は、帰伯子弟は学校でも大人しくなる傾向があるとし「ブラジルにも差別や偏見があり、それを乗り越えていくのは大変だ。帰ってきたみんなが、皆さんみたいに前向きな考え方をしてくれればいいのに」との感想をのべた。
 CIATEの二宮正人理事長は「日本では働きながら学ぶことが難しいが、ブラジルではそれが普通。頑張り次第でどんな職業にも就ける」と激励。「ブラジルに帰ってきたからには日系人として、104年も前からみなさんと同じような苦労してきた日本移民の歴史も知って欲しい」と力説し、「次に日本に行くときは、ぜひ国費留学生として堂々と行ってほしい」と締めくくった。
 中村監督は取材に対し、「来場者から出演者に励ましの言葉もあり温かく受け取ってもらえてよかった。出演した彼らのプラスになれば」と笑顔で語った。