第9回(最終回)=更なるブラジル進出はあるか=法的整備も今後の課題

ニッケイ新聞 2012年6月26日付け

 【久慈】日本の企業はあんまり見てない。「ブラジル? アマゾン?」って人まだいますよ。『すき家』『キッコーマン』も先見の明がある。他のメーカーなんか市場と認識すらしてない。
 —やっぱりそのレベルですか? ちょっと前と比べて見たら、ブラジルへの見方は変わってきたと聞きますけど。
 【高山】
ラーメン関係で出てくるって話を聞いたことがありますけど…。やっぱり距離が非常に遠い。後は言葉の問題。ちょっと色々と違い過ぎる。だけど、来てみたら変わると思いますよ。
 【久慈】知らな過ぎる。来たら分かる。日本の蔵元なんて伝統と文化に胡坐かいてる人達多いから。それを利用すりゃいいのに。今日本は元気ないからね…海外進出に対してはもっと石橋を叩くんで。そうなるとなかなか来れない。
 【森】外国の会社だと海外進出に失敗したら即外される。ある方の話だと、日本企業は90年代前半にこぞってブラジルから撤退したでしょう。その時30代の人が今は重役とかで発言力がある。かつてのトラウマで「ブラジルは危ない」とストップかける。ネガティブな所から入るから。けど、それ言ってたら無理でしょう。
 【一同】大きくうなずく
 【森】足し算と引き算をして、プラスが見込まれるなら行くしかないんですよ。引き算の部分だけ考えすぎて、あまりに慎重に、及び腰になってしまうと厳しいですよね。
 【久慈】でもこれだけの日系社会とその影響があるっていうのを、あまりにも知らな過ぎる。
 【高山】他社がどうされるかは分からないですけど、レストランチェーンという意味で言えば、これからの進出はあるんじゃないかな。
【森】個人的な願望としてはやっぱり、B級グルメが来てほしい。高い日本食はありますけど、手頃な「すき家」みたいなのが少ない。カレー、ラーメンとか。ファミリーレストランも欲しい。
 【高山】回転寿司はありますよね。中身はまだ違いますけど…あまり美味しくない。
(一同笑い)
 【森】日本の回転寿司にブラジル人一行を連れて行ったら、本当にビックリしてた。ネタの多さと新鮮さと、安さでね。そりゃあそうですよね。
 【久慈】ラーメンが来れば、醤油が必要。居酒屋がもっと出来れば、酒の商品が増える。
 —風が吹けば…じゃないけど、色んな業界が潤うでしょうね。
 【久慈】
韓国は今、居酒屋ブーム。アメリカの人達は靴脱いで胡坐かいてっていうのは難しいけど、ここは日系の文化があるんだから、もっと居酒屋出てもいいような気がする。高級レストランだけじゃなくて。
 —ただ、企業のやる気もさることながら、輸入の際の手続きや税金など問題も山積です。
 【森】
商品に限らずですけども、表示、あるいは宣伝の問題も多い。
 —どういう部分ですか。
 【森】
一般的には品質、宣伝の謳い文句。入ってるものを入ってないと表示したり、あるいは誇大表示。「ナチュラル」「本格」とかあるけど、実際はない。最近は誰でもそういう言葉をマーケティングで使う様になった。
 —キッコーマンが使いたい宣伝文句。
 【森】
そうすると、今我々が入っても、単に言葉を並べるだけじゃ同じものになる。「本格的醤油」って言っても、もうすでに言葉では出回っている。そうなるとやっぱり比較しないと勝てない。それは一番コストがかかる。実際につき合わせて食べるわけですから。
 —その部分でまさに奮闘されていますよね。
 【森】
そういった意味では、マーケティングのレベルとか宣伝の質が問われてくるし、段々その辺が淘汰されてくるんじゃないかという風に思う。輸入の面で一番大きな問題は、やはり税金と手続きの煩雑さ。
 —今キッコーマン醤油は一本幾らですか。
 【森】
店頭で1リットル24レアル。税金も含めて、総コスト入れると日本の原価の約3倍。
 —日本の感覚でいうと超高級醤油ですね。
 【森】
色んなものを入れていくとそれくらいになっちゃう。それ以外にも、書類上不備はないのに通関を通らないって問題がある。そういうもので色んな意味でビジネスチャンスを失うわけですよ。やはり日本の食文化だけでなく外来のものを広げていく中で絶対障害にはなる。我々も努力はしますけど、これから経済がよくなっていく中でブラジル自体も変化する必要があると思う。
 【久慈】W杯と五輪っていう、一大イベントが1年おいてある国ってのはそうそうない。
 —確かにそういう法的整備がブラジル側に必要だろうし、政治的な働きかけも期待したいところですよね。今日皆さんが語ったことは、ブラジルにおける日本食史上、重要なんじゃないかなと。本紙が現段階でこの座談会を企画したのは非常に価値があったと思いたい。みなさんどうもありがとうございました。(おわり、4月13日収録)