コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年7月18日付け

 「バストス経済の8割5分は日系人が握っているが、政治は9割をブラジル人に握られている」。旅館を経営する傍ら、日本語教育に尽力してきた戦後移民の宇佐美宗一さん(74、大分)が、苦々しい表情でそう語ったのが印象的だった▼日本移民が作った町だけに、かつては7代も続けて日系市長が君臨するというコロニア史に輝く大記録を作った。今回その後日談を初めて知った。「市長をやった日系人は例外なく、そのあと倒産している」のだという。驚くべき事実だ▼以前、さる政治家夫人から「夫が立候補した次の日から、近隣の市民が電話代、電気代、水道代の銀行振込み票を持って毎朝、家の前に列を作るようになって心底驚いた」と聞き、呆れた。投票と引き換えに支払いを求めるのだとか。そのような出費を賄うには、議員給与だけでは足りないから、政治家は当然のように公費から掠め取る、とはよく聞く話だ▼宇佐美さんは「なにか問題が起きると、日系人は直ぐに自腹を切る。責任感がありすぎ。真面目すぎるから、すぐに倒産する。ブラジル人政治家のようにエンホーラ(明言を避けて時間稼ぎ)したり、カーラ・デ・パウ(鉄面皮)を決め込むことができない」と嘆く。「日系人の長所」といわれる特徴が、政治家としては弱点になってしまう。この長所を継承することは重要だが、政治家としてブラジル人に伍していける人材を育てることも大事な課題だ▼「国民は、自分と同レベルの政治(家)しか持てない」とは、よく言われる箴言だ。当然ブラジルしかりだが、最近の祖国の様子を見ていると「日本よ、お前もか」と胸が痛くなる。(深)