コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年8月15日付け

 竹島問題、北方領土問題への日本政府の対応を見ていて痛感するが、どうして「外交的なしたたかさ」がないのか。日露戦争の頃までの日本はしたたかに計算して外交手腕を発揮していた。「国民は自分のレベルにあった政治家しか選べない」との箴言からすれば、国民自体も変わる必要がある▼日本人高校生や大学生の半分を外国で2年ぐらい留学や労働体験させる国家事業を始めたらどうか。外国で苦労しながら日本人としての誇りや日本国の長所を痛切に感じ、外国人と関係を築く経験をつんだ発想の先にこそ、等身大の外交があるのではないか▼特にバブル期以降(80年代後半)の豊かさの中で育った世代は、テレビやネットで知った「情報」だけで「世界が分かった」と満足している風に見える。他人から与えられた情報ではなく、自分の目で現実を見る「体験」をつむ大切さは何事にも変えがたい▼まずは日伯の若者の交流拡大を試み、他国への参考事例にできないか。2年ほど気軽に互いの国で交流できるビザ、例えばワーキングホリデービザ協定を日伯間で結ぶのはどうか。日本語教師だけでなく、進出企業やコロニア企業で働いてもらう経験も良い。交流ビザを真剣に考えたい▼どんなに立派な書物を読んでも、自分の心にそれに呼応する体験をもっていなければ、行間に込められた意味は心にしみ込まない。NHKドラマを見てその時は感動したつもりでも、1時間すれば粗筋すら忘れてしまうのに似ている。それでは「情報」として消費されるだけだ。でも、自分で「体験」したことは生涯忘れない。その部分を大切にすべき時代ではないか。(深)