『汚れた心』本日より公開=監督、著者、俳優に聞く=作品の意義、込めた思いとは

ニッケイ新聞 2012年8月17日付け

 【既報関連】終戦直後に起きた勝ち負け抗争を描いたブラジル映画『汚れた心』(Coracoes Sujos、2011年、90分)が、本日17日から全伯各地で公開となる。それに先立つ14日、メディア向け試写会と同映画監督のヴィセンテ・アモリン、原作となった同名著者でジャーナリストのフェルナンド・モライス、プロデューサーのジョアン・ダニエル、警官役を演じた俳優のエドアルド・モスコヴィスの記者会見が開かれ、それぞれの立場から作品に込めた思いや考えを語った。映画はリオ、大サンパウロ市圏、サントス、ベロ・オリゾンテ、ブラジリア、レシーフェ、クリチーバ、マリンガー、ロンドリーナなど主要都市35カ所で公開予定だ。サンパウロ市内での上映情報は次のHPで。guia1.folha.com.br

監督ヴィセンテ・アモリン=「コロニアのお陰でできた」

 「ガイジンである自分が大和魂について描いている映画を、日本人がどういう反応をもって受け取るだろうか。とても気がかりだった」。監督のヴィセンテ・アモリン(46)は、映画が当地に先立ち日本で先行公開されたことについて、冒頭のような不安を抱いていたことを明かした。
 7月の公開に伴い、数多くの日本のメディアから取材を受けたというアモリンは、最初にインタビューした朝日新聞の記者から「大和魂について最もよく描いた現代映画」との評価を聞き、胸をなでおろしたという。「結果的にはほぼ全てのメディアから好評価を得た」と喜んだ。
 「原作を読んだとき、この歴史を描くことで原理主義、人種差別、不寛容、それにアイデンティティ、これらをテーマにする映画が作れると思った」と、勝ち負け抗争を主題に選んだ理由を説明する。
 一般ブラジル人がこのテーマを理解し共感を示すと思うか、との質問に対し、「映画で描いたテーマは普遍的なもの。ブラジルの日系コロニアで起こった話だけど、世界中で問題になっていること。台詞の8割が日本語だが、受け入れられ、理解されるはず」と答えた。
 最後に「繊細で、同時に暴力的。本当にあったことを語った感動的な映画。日系社会の協力がなければ完成しなかった」とのメッセージで締めくくった。

原作者フェルナンド・モライス=「世界で成功する映画」=夫婦愛描いた感動の物語

 原作者のフェルナンド・モライスは、「世界的に認められている監督、経験豊富なプロデューサー、脚本家が揃っていたから質については疑いようがなかった」と前置きし、原作者として自著の映画化に関する印象を次のように語った。
 自身が90年代に文豪ジョルジ・アマードにインタビューしたさい、アマードは小説の映画化には否定的だったという。 「小説を元にした映画全てが原作に対する冒涜であり、不快に思いたくなければ映画館に行かないことだと彼は言っていた。しかし私の作品の場合はそうじゃなかった。原作の価値を下げるどころか、むしろ理解を助けたと思う」と評価した。
 その理由として「原作のストーリーはマシスタ(男性中心)的だが、映画では女性が中心だ」とモライスは説明する。
 「本に出てくるのは男ばかりで、女性は目立たない役回りだった。しかし、映画では主人公の妻が語り手。夫婦愛の物語が主軸となって、それが最後まで続く。本に出てこない人物を出すことで原作を台無しにしたと思うかと誰かに聞かれたが、全く思わない。その逆だ」とのべ、「映画は原作に忠実に作られている。暴力的なシーンもたくさんあるし、(夫婦愛のシーンは)価値を下げるどころか、プラスに働いたといえる」と分析した。
 「一観客としてとても感動した。世界中で成功すると思う。これから数十年鑑賞される、古典的作品になるだろう」と出来栄えを絶賛し、太鼓判を押した。
 同席したプロデューサー、ジョアン・ダニエル・ティクホミロフは、「映画は大衆を掴むことができる。フェルナンドが書いて掘り起こした歴史を、映画にすることによってより多くのブラジル人にこの歴史を知ってもらう結果になると思う。映画は本の価値を伝え、観客を喜ばせるものになった」と満足げに語った。

俳優エドアルド・モスコヴィス=素晴らしい日本の俳優陣=「革新的な仕事だった」

 映画に登場する数少ないブラジル人俳優の一人で、最も出演シーンが多かったエドアルド・モスコヴィス(44)。テレビドラマ、映画、舞台と幅広く活躍する俳優だ。
 物語の舞台となった地域のデレガードを演じた。それまで日系社会とは全く関わりはなく、「あの歴史を全く知らなかったから、どのように演じればいいか、全くアイデアがなかった」と明かした。
 18週間に及んだ撮影のうち、参加した8日間について「それまでの仕事とは全く異なる革新的な仕事だった。色々と考えさせられ、あらゆることを確認する機会になった。自分のキャリアにとって、とても意義深い作品になった」と感想をのべた。
 共演者のほとんどが日本人、言葉も通じ合わないという状況も苦にはならなかった、とモスコヴィスは言う。
 「皆アベルトで親しみやすく、意欲に溢れていた。それに現場も居心地が良く、仕事がしやすかった」。初めて共演した日本人俳優陣についても、「彼らの仕事には感動した。特に奥田瑛二、伊原剛志の二人は本当にすばらしかった」と絶賛した。