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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年8月17日付け

 ロンドン五輪でブラジルは17個のメダルを獲得したが、日系は柔道男子のフェリッペ・キタダイ(銅)だけ。しかし拳闘界に44年ぶりのメダルをもたらしたYamaguchi選手(銅)と弟Esquiva(銀)の健闘も注目された。ヤマグチ・フロレンチノ選手は血筋の上では日系ではないのに、なぜこの名前なのか。しかも苗字ではなく名だ▼父トウロは柔術の選手で、60年代にはワルデマル・サンタナと引き分け試合を演じて一時代を築いた人物だ。その数年前にワルデマルは、エリオ・グレーシーを破った有名な試合をしたばかりだった。同グレーシーは当地柔術の祖・前田光世から教わって独自の柔術体系を作った有名人だ▼ところがトウロはその後、家族で橋の下で暮すほどの貧困に陥るも立ち直り、エスピリットサント州の自宅裏庭のバナナ園に仮設リングを作って息子を特訓し始め五輪選手に育て上げた。どこか〃ブラジルの丹下段平〃(漫画『明日のジョー』)的な人物だ▼UOL16日付けによれば、トウロは夜の店で海兵20人と喧嘩になって叩きのめした。その仕返しとして、トウロの隣人で運動ジムを経営していたヤマグチが殺されたらしい。その犠牲になった友人を顕彰して息子の名につけたという▼弟Esquivaは、72年から3回の五輪連続で優勝を飾ったキューバ選手Teofilo Stevensonに因んだ。「この名では登記所が受け入れてくれなかったからEstivanにした」。今はさらにポ語風の名で知られている。でも登記所でYamaguchiが一発で受け入れられたのは日本移民の〃実績〃のせいだ。(深)

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