コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年12月19日付け

 クラブ世界一決定戦で横浜競技場が「パカエンブー」になった日、自民党が総選挙で大勝した▼試合終了直後、優勝したコリンチャンス(チモン)のキャプテンのアレサンドロは「08年に移籍してきたときセリエBだったチームが、世界一になる日が来るとは思わなかった」とコメントした。同クラブは当初、ロナウドら絶頂期を過ぎたスター選手を入れて補強したが見事に失敗。高給ばかり貰って結果を出さない彼らに、文字通り石を投げて追い出したのは熱狂ファンだった▼「普通はチームがファンを持つが、チモンだけはファンがチームを持つ」と言われる。荒くれ者ぞろいの熱狂ファンが怒れば、選手、クラブ役員らは命の危険すら覚える。軍政だった80年代に民政移管の先鞭を付けた、ファンと選手が経営に口を出すデモクラシア・コリンチャーナの伝統は今も生きている▼サッカーは英国人が当地に伝えた100余年前には裕福な白人だけのスポーツだった。そこに始めて貧乏人や黒人の選手を入れたのがチモンだ。ブラジル統合、ブラジル人アイデンティティ形成に混血主義は欠かせなかったし、それをサッカーで先導したのは同クラブだった▼今回は空前の約1万人もの熱狂ファンが訪日し、チームを強力に後押しした。決勝点を入れたのは南米の〃貧乏国〃ペルー人選手で、熱狂ファンは心から喜んだ。以前、チモンのアイドルは亜国のテーベスだった。今サッカーを通し南米統合のイメージが生まれつつある▼前回の総選挙で日本国民は自民党に「石を投げ」て民主党を大勝させた。野党という〃セリエB降格〃を経験した自民党だが、チモンのように奇跡の再起を遂げるか?(深)