コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年1月4日付け

 6面に掲載中の『暁に向かって』(伊那宏著)に関して様々な反応があり、OB筋からは「パ紙が円売りに関係していたような話を載せるなど愛社精神が薄い」とのお叱りも受けた。新聞社は単なる民間企業だが「紙面は公器であるべき」と編集部では考えている。「新聞社関係だから、この件は永遠に闇に葬られるだろう」との言葉をそのままにしてはおけない▼伊那さんの一文掲載の最初に断り書きした通り、これはあくまで「推論」であり、断定する内容ではない。しかも編集部的には同意しかねる内容もあることも断り書きした▼それでも掲載したのは、編集部の意図とはまったく別の次元で、読者や後世の研究者にとっては、勝ち負け抗争の本質を見極める上での意義深い〃判断材料〃が含まれている可能性があると考えたからだ▼特に何度もコロニア有名人や企業名が出てくるのには躊躇した。昨年の本紙創刊15周年プレ特集の座談会でも、パ紙大先輩・水野昌之さんの言葉として明記した通り、「彼らの人格からしたら円売りなんぞに関わるようなことはありえない」との意見が強いし、その価値観がコロニア史観の基調だと併記しておく▼あえて掲載することで、推論にあるような〃陰謀〃に弊紙が関わって「言論を押し殺している」訳でないことは分かってもらえたと思う。たとえ考え方は違っていても互いに意義が認められる議論はあるし、多様な推論を掲載して、読者に豊富な〃判断材料〃を提供することこそが大事だと考えた▼かつて『経済報知』など色々な新聞があり、特色ある考え方を披露していた。今は邦字紙が「公器」として多様性の受け皿になる時代なのだろう。(深)